インタビュー企画 ピックアップ がんばる人間工学家
第4回
濱田貴行さん、近藤晃一さん、
松島至俊さん
(株)モリタホールディングス技術研究所
(株)モリタホールディングス技術研究所の紹介
モリタグループでは、消防車両、防災用品、環境車両、自転車などに関する事業を行っており、技術研究所は中長期的な技術を構築することを目的に、消火戦術、消火薬剤、電子制御の研究開発、グループ製品のデザイン、知的財産の管理などを行っています。
モリタホールディングスの中の「技術研究所」
- 松岡:
- モリタホールディングスさんの紹介と技術研究所さんの業務内容を教えてください。また、皆さんは、技術研究所の研究開発室に所属していらっしゃいますが、業務内容も教えてください。
- 濱田:
-
モリタグループでは、国内・海外における梯子消防自動車をはじめ、各種消防自動車の開発・製造・販売を行っています。また、消火器、消火設備などの防災事業、ゴミ収集車・バキュームカーといった環境車両事業、産業廃棄物処理機やリサイクルプラントといった産業機械事業、ミヤタサイクルの自転車事業を行っています。
- 濱田:
- 私は技術研究所 研究開発室に所属し、各種消防自動車の車両デザインやそれらの操作機器のインターフェースデザインを主に担当しており、消防車両以外にも、ミヤタサイクルのロードバイクデザインをはじめとしたグループ各社のデザインを担当しております。
- 近藤:
-
私は各種消防自動車のデザインの他、モリタグループ各社の製品、例えば、ゴミ収集車、バキュームカー、消火器のラベルなど、立体からグラフィックまで様々なデザインを担当させていただいています。
- 松島:
-
私は二人とは異なり、消火材等の研究開発を行っています。消防防災メーカーらしく,いかに短時間かつ少ない水で効率良く消火を達成するかを研究しています。また消防職員の高齢化や安全性を考慮した資機材の研究開発も担当しております。
次世代へ向けた消防車両の提案・デザイン賞受賞
- 松岡:
- モリタさんといえば、新聞やテレビ等の各種メディアで林野火災消防車のコンセプトカーが紹介されていますが、改めてご紹介ください。
- 濱田:
-
林野火災消防車コンセプトカー
(Wildfire Truck Concept)
昨今、海外では大規模な林野火災が多発していて、大きな被害が報告されている現状がありました。そこで消防車メーカーとして、林野火災に特化した車両を作ろうと考えたのが開発の始まりです。
林野火災の消火は市街地火災と異なり、指揮本部とヘリコプターの空部隊、火災現場で消火活動を行う陸部隊の連携という3つの部隊で構成され、消火活動が行われます。この3つの部隊情報共有が必要となりますが、林野では市街地と異なり、既設通信インフラが利用できず、部隊間のコミュニケーションが難しいという課題がありました。そこで移動体衛星通信を用いた陸部隊の情報基地をコンセプトに、車両を開発しました。
消火車両としての性能に加え、車体中央部が情報通信室になっていて、火災現場の映像や風の向き、熱画像を送信でき、マルチディスプレイを通じて、地理情報、気象情報の取得、それらに基づいて、指揮本部とのweb会議も可能な装備となっています。この林野火災消防車コンセプトカーをドイツで開催された世界最大の消防防災展、インターシュッツ2010で初公開しました。その後、中国、韓国の消防防災展にも出展しています。おかげさまでいろいろなメディアに取り上げて頂き、諸外国から販売要望の声も頂いています。国内ではまだ実車の展示を行っていないのですが、いつか皆様に見て乗っていただけたらと思っています。
- 松岡:
- この林野火災消防車で、世界的なデザイン賞を取られたとのことですね。
- 濱田:
- このコンセプトカーがアメリカのIDEA賞(International Design Excellence Awards 2011)で金賞、ドイツのレッド・ドット・デザイン賞デザインコンセプト部門でベスト・オブ・ザ・ベスト賞を頂きました。これらの賞は世界三大デザイン賞とされていて、プロダクトデザイン界のオスカーと呼ばれています。
- 松岡:
- 三大デザイン賞のうち、二つも受賞されたのですか?残りの一つも気になりますが、せっかくなので、受賞時のエピソードなどもお聞かせください。
- 濱田:
- 授賞式では他にボーイング787ドリームライナーやウィンドウズフォンやメルセデスベンツなどが受賞されていて、錚々たるデザイナーがいました。そんな中でスピーチを少ししなくてはいけなくて・・・ これはえらい所に来てしまったという思いでした。でもとても大きな拍手を頂いて、感動しました。また、他国のデザイナーと話して、とても刺激になりました。あの瞬間はたぶん一生忘れないと思います。
新たな取り組みとしての人間工学
- 松岡:
- デザインが主な業務とのことですが、デザインというと感覚的な設計を皆さん、想像されると思います。人間工学へアプローチしたきっかけはどのようなことですか。
- 濱田:
- デザインを行う上で、アイデアを出したりスケッチを描いたりする発想段階では、感覚的な要素が大きいと思います。一方でその商品の、人が関わる部分や触れる部分、使い勝手に関係してくる部分は、いろいろな角度から検証して、データに裏付けられた、若しくは導かれたアウトプットにしたいと考えています。ヒトが使うモノに対して、感覚的な設計に加え、数値的な裏付けをとっていき、人間工学の手法を用いたデザインを行うことで、ユーザーの使い勝手が向上し、より使いやすく、安全性の高い提案ができると考えています。
- 松岡:
- 消防車の使用状況は、非常に緊迫した状況での使用かと思います。その点で、設計に配慮していることなどあれば、教えてください。
- 濱田:
- 消防隊員さんは非常に緊迫した環境下で活動されています。いつ爆発するかわからない環境もあれば、炎の熱を受けながら何時間も活動されることもあると伺いました。そんな環境で使用される消防車においては、「より安全に・より確実に・より迅速に」ということに重点を置いて設計しています。加えて、いかに隊員の負担を軽減するかが大事だと考えています。例えば林野火災コンセプトカーでは、資機材収納棚が降りてくるデザインにしました。従来では車両の高い所に重い資機材が収納されていて、ステップを介してヒトが取りに行かなければなりません。資機材の取り出しの負担を減らし、消火活動の負荷を減らすことを考えた場合、モノがヒトに近づく関係にしたいと考えました。ヒトがステップを登って取るのではなく、資機材収納棚が、ヒトが取り出しやすい位置に降りてくることで、安全性が向上し、隊員の負担も軽減されます。
- 松岡:
- 松島さんはデザイナー的な仕事とは異なりますが、設計者として、気にかけている点などあれば、教えてください。
- 松島:
- 車両や資器材,実験装置など,様々なモノを設計しますので,それぞれによっても異なりますが,いかにシンプルなモノにするかということは,共通して意識しています。モノがシンプルになれば,作り易さや壊れにくさ,コスト低減に加え,モノを使う人にとっては使い易さにも繋がるため,重要な要素と考えています。また,消防の現場で使用されるものは,どうしても設計が安全側に偏り,過剰品質になりがちです。いかにコストを抑えつつ,必要強度を確保するかということも気にかけています。
- 松岡:
- 現在の皆さんの開発業務と人間工学の関わりをお聞かせください。また、今後の展望などもお聞かせください。
- 濱田:
- 現在は、消防隊員が昇降する時のステップのあり方や、消防車の周囲を動くときの動線、操作機器のインターフェースのあり方を考えております。また色彩による安全性向上へのアプローチなどがあります。自転車においても、少ない負担でこぎやすく、安全性の高いフレーム形状が提案できたらいいですね。今後も人間工学によってユーザーの使いやすさが向上するよう努めたいと思います。
- 近藤:
- これまで環境車両系のデザインを手がけてきましたが、近年はアジア向けの車両にも携わるようになり、身体的な違いはもちろん、作業内容、例えばゴミの収集システムの違いなど配慮すべき項目が増えてきています。スイッチ一つとっても日本の車両とは違う位置に取り付ける必要があります。そんな時、作業員の安全に配慮した最適位置の決定に人間工学が役立っています。
- 松島:
- 現在の担当業務として,身体負担を軽減する製品開発を進めております。まだ人間工学を学び始めたばかりですが,「人間の感覚」という曖昧なものを数字化して応用できる素晴らしい分野であることを痛感しております。データと理論に裏づけされた使い易い製品設計ができる技術者に成るべく頑張ります。
- 松岡:
- 本日は、貴重な時間をありがとうございました。モリタ技術研究所の素晴らしいチームワークと時代を先取りした積極的な取り組みについて、お話を聞かせていただき、大変、参考になりました。今後も素晴らしい成果をお聞かせいただけることと期待しております。
- インタビューア:松岡敏生(まつおか としお)
- 三重県工業研究所 医薬品・食品研究課 主任研究員を経て、現在、三重県産業支援センター北勢支所(高度部材イノベーションセンター)主幹。博士(工学)。研究領域は繊維工学・感覚計測・リハビリテーション科学・福祉工学・など。