インタビュー企画 ピックアップ がんばる人間工学家
第3回
藤原 義久さん
(三洋電機株式会社 研究開発本部基盤技術研究所)
三洋電機株式会社はエナジー、電子デバイス、デジタルシステム、コマーシャル、コンシューマなどの事業を展開しており、研究開発本部基盤技術研究所においては、これらの事業部門を支える基盤技術の研究開発にも取り組んでいます。今回、同研究所において、製品評価から新製品の企画提案、販促支援まで、人間工学的な視点から幅広く社内外でご活躍されている藤原義久さんにインタビューしてきました。
共通基盤となる要素技術:ユーザビリティ・人間工学を活かした製品開発
- 池島:
- 初めに、普段はどのようなお仕事をなさっているのでしょうか?
- 藤原:
- ものづくりをする際に社内で広く共通基盤的に必要となる要素技術として、ユーザビリティ・人間工学に関するテーマを担当しています。操作性や快適性、身体への負担、感性などの評価にとどまらず、付加価値を高めるような製品作りの提案や、事業部門の方と連携して販促サポートなども行なっています。家庭用から業務用の機器、ヘルスケア、さらに、エナジー応用商品やデバイスなどに関する評価や開発支援など、様々な人間工学に関わる業務に従事したので、幅広い知識と経験を持っていることが強みと思います。
- 池島:
- 今までのお仕事の中で印象に残っているものはありますか?
- 藤原:
- 健康・快眠家電の開発でしょうか。たとえば、温熱機器に関しては、従来は室内などを温める事が訴求機能でしたが、睡眠に応じた温度制御をすることにより、快適な睡眠というプラスαの価値を生み出すことにも着目しました。また、生体センサー搭載の家電機器は、社内にて商品化を提案した当初はなかなか理解されずに苦労しました。メリットは何か、コストはどの程度かかるか、どこで作るのかといった問題、また競合相手、売る場所なども考えなければなりません。そもそもまだ世の中に認知されていない商品なので理解されづらく、何度も顧客のメリットやコストダウンの方法、技術的な解決案やエビデンスなど、事業部に提案を繰り返しました。そういった過程を経て商品化したもの、また自分達の考えたものが実現した、という仕事がやはり印象に残っています。
- 池島:
- 商品化した後は、どのように商品にかかわっていらっしゃいますか。
- 藤原:
-
発売された商品に関しては、研究という側面からの情報をできるだけ外部に発信するようにしています。具体的には、商品に関わる学会発表や論文作成といったことを積極的に行って学術面からのサポートに努めています。
大学の先生と共著を出したり、カタログやHPに出てもらったりすることもあります。商品開発のプロセスにも関わってもらうことで、第三者認証、といいましょうか、客観的なエビデンスを求めるという側面もあります。
現職に至るまでのキャリアパスと今後の展望
- 池島:
- これまでずっと人間工学的なことをされてきたのでしょうか?
- 藤原:
- いいえ。大学ではシステム工学などを学び、入社当初は画像処理の研究を担当していました。カラープリンタの開発に関わったのですが、当時は忠実に色を再現することが求められる時代でした。ですが、人が見て綺麗と思う画像処理をしたらどうか、そのほうが人の好みの違いが出て面白いのではないか、と考えていました。これは大学時代、同じ学科内に長町三生先生がおられ、感性工学を身近に感じていたことも理由の一つかと思います。また、ファジィ工学が提唱され出した時期でもあり、ファジィを用いて人間感性の定量化を行い、画像処理に取り入れた頃から人間工学の仕事に携わり始めたという感じがしています。
- 池島:
- ずっと三洋電機の研究所でご活躍されてきたのでしょうか?
藤原 義久
(ふじわら よしひさ)
三洋電機株式会社 研究開発本部基盤技術研究所 担当課長。
博士(工学) 認定人間工学専門家。
製品の適合性評価から新製品の企画提案、販促支援まで、人間工学的な視点から幅広い提案を行う。
- 藤原:
- 基本的に三洋電機の研究所で過ごしてきましたが、通商産業省の「人間感覚計測応用技術プロジェクト」に関連して、社団法人人間生活工学研究センター(HQL)に3年間、出向するなど、社外での経験もあります。
- このプロジェクトにおいては、快適性などの人間感覚を考慮した製品開発の重要性が言われ始めた時代でもあり、快適などの感覚を定量化するモノサシ作りや、また、そのモノサシを活用した社内製品評価を行なっていました。当時の通産省生命科学研究所(吉田倫幸先生)との共同研究を通じ、生理計測や生理心理計測などを習得し、脳波計測(α波1/f解析、ERP)、脳機能計測(ダイポール)(藤原他、事象関連電位P300およびダイポール推定からのストレス認知メカニズムの検討、電子情報通信学会技術研究報、1995)などの研究成果として、ストレスと右前頭葉の関連性なども発表しました。(当時、学会でも、前頭葉と感覚に関する研究報告が初めてだったこともあり、叩かれたりもしましたが(笑)
- HQL出向時には、ユーザインタフェースの研究やコンピュータマネキン、ユーザビリティなどのプロジェクトマネージメントを担当しました。人間工学の中でも、生理計測とは異なる分野を経験させていただき、様々な専門分野をお持ちの研究者や大学の先生方などとの幅広い人脈やネットワーク、専門性が広がりました。特に、山岡教授(和歌山大学)とのプロジェクトでは、「構造化ユーザインタフェースの設計と評価―わかりやすい操作画面をつくるための32項目」の出版にも参画させていただくなど、色々な経験をさせてもらいました。
- その後、三洋電機の研究所に戻り、ヘルスケア関連の研究開発に従事することになりました。これまでの経験を生かし、ヒューマンセンシング&パーソナルフィット制御に関する研究、快眠・健康に関する研究、また、これらに係わる商品化、また、近年はユーザビリティ関連として、使いやすさ、分かりやすさ、身体へのやさしさ、などを考慮した商品開発に係わる業務にも注力しております。
- 池島:
- 今後はどのようなことを考えていらっしゃるのでしょうか。
- 藤原:
- 今まで行ってきた人間工学に関連する取り組みを深化させたいとも思いますし、また、今後は、観察手法やビジネスエスノグラフィなども活用して、ユーザニーズやユーザの本質的なコンセプトを考慮した商品企画などにも人間工学家として貢献していきたいと考えています。
- 池島:
- 様々な分野で経験を積まれてきた藤原さんならではの視点ですね。興味深いお話をありがとうございました。
- インタビューア:池島江里子(いけじまえりこ)
認定人間工学準専門家
株式会社イトーキ 中央研究所 Ud&Eco研究部 - オフィス家具の製品開発の前段階に当たる調査研究に従事。調査研究に基づく製品の原案の提案や、試作品の評価などを行う
- インタビューサポーター:松田典子(まつだのりこ)
大阪市立大学大学院・後期博士課程在学中 - 人の内面と、感覚器官、および生理特性との関わりなどに興味があり、最近では特に視線の動きとの関係についての研究に従事。
【感想】
企業の方にお話しを聞く場合、どうしても何か特定の製品について、といった形でお聞きすることが多くありました。しかし今回は、今までやってきたことなどを広く、また総合的にお聞きすることが出来、大変興味深く聞かせて頂きました。