イベント案内

投稿日:2015年01月19日|投稿者:JES事務局

医療・介護分野の勤務環境改善の取り組みと成果・課題

【開催日】2014年10月26日(土)
【場所】埼玉県立大学・北棟大講義室
【記事担当】広報委員会 大内啓子((財)日本色彩研究所)

概要
主催
一般社団法人日本人間工学会
埼玉県立大学保健医療福祉科学学会
期日
2014年10月26日(土)13:10~14:30
場所
埼玉県立大学北棟大講義室
講演プログラム
演 題
「医療・介護分野の勤務環境改善の取り組みと成果・課題」
酒井一博(公益財団法人労働科学研究所)
公開講座の様子

写真1. 司会の徳田哲男先生
写真1. 司会の徳田哲男先生

日本人間工学会の公開講座が2014年10月26日(土)13:10~14:30に埼玉県立大学北棟大講義室において開催されました。今回は、埼玉県立大学保健医療福祉科学学会との共催で、第5回学術集会の中で行われました。

演題は「医療・介護分野の勤務環境改善の取り組みと成果・課題」であり、公益財団法人労働科学研究所の酒井一博先生によるご講演です。

まず、人間工学会副理事長で埼玉県立大学保健医療福祉科学学会学術集会長の徳田哲男先生により、本企画についての趣旨説明と演者である酒井先生のご紹介がありました。

写真2. 講演される酒井一博先生
写真2. 講演される酒井一博先生

酒井先生のお話は、2000年前後から今日に至るまでに医療分野で起きた様々な事件の紹介から始まりました。その中で、1999年に起こった患者取り違い事故について、その事故が起きた背景と医療ジャーナリストがこの事故を取り上げ、マスコミの目を通じて初めて世の中に紹介され医療事故であること、そして、その著者がこの年を「医療安全元年」だと位置づけたことを紹介されました。

そして、医療事故の裏返しが医療安全とみることができるけれども、医療安全とは一口で言えば、患者の安全と健康を守ることであり、それには、そこで働いている医師や看護師、さらに関連する様々な職種の人たち全てが安全・健康であってこそ医療安全の確保は可能になるとし、以下の3つの視点を紹介されました。

第1の視点

看護師を初めとする医療従事者の離職率を削減すること。多くの職種の人たちによるチーム医療では、医療従事者が長く働き続けられることと一度職を退いた場合でも再就職ができることが大事である。

第2の視点

医療現場で働いている方々の状況を知り、互いに理解することが重要。医療従事者では女性の比率が非常に高く、24時間365日様々な患者の医療や生活を医師・看護師・薬剤師等がチームで行う労働集約型の仕事。加えて、医療現場にはIT化も急速に進んでおり、新しいITへの対応も要求されてくる。さらに、感染や薬剤(化学物質)、放射線など様々なリスクがある中で働いていることを踏まえなければいけない。

第3の視点

患者から選ばれる病院にならなければいけない。その要件の一つとして、安全な病院であり、職員が健康な病院であること。

そのためには、労働の質を向上することが必要になってくるが、労働時間一つとってみても、労働基準法で決められた1日8時間週40時間を守ることは医療現場ではなかなか難しいことに加えて、24時間交替で働いている医療現場では、夜勤交代制に関する時間的な法的な決まりは一切なく、唯一あるのは年に2回健康診断を受けなければならないということだけである等、驚くべきお話もいただきました。

我々一市民からすると、何かあった時に真夜中でも病院で診てもらえることに安心はするけれども、医療関係者にとっては、生理的・心理的にもかなりきつく、辛いことを、市民は知らなければいけないと深く痛感した次第です。

さらに、夜勤と過労と医療の安全の関係について、「一ヶ月間の夜勤回数が多い看護師ほど、疲労の自覚症状はずっと増え、自覚症状が多い看護師ほど事故を起こすのではないかと思う割合が高くなる」という調査データを紹介され、事故を起こすのではないかという思いが離職につながる場合もあると解説していただきました。

また、交替制勤務について2交替と3交替のどちらが良いのかについての議論は活発であるけれども、いかに残業時間を減らすかの議論は少ない。これからは平等な働き方から公平な働き方への切り替えをしていくことが必要であるとお話いただきました。

続いて、日本医師会や日本看護協会、日本病院会等で行っている具体的な取り組み事例についてのお話です。

日本医師会では平成20年度に「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」を発足し、その報告書の中で「医師の健康状態を支援することが今日の社会的な医療の課題を再生するのに不可欠である」とまとめられたことや、日本医師会のHPで公開されている、「医師が元気で働くための7箇条」について紹介頂きました。この7箇条の中には、「睡眠時間をしっかりとること」という項目も含まれており、いかに医師の仕事が過酷であるかを示すものだと思いました。

そして、日本看護協会における取り組み紹介では、「ワークライフバランス推進ワークショップ」についてのお話があり、このワークショップにより多くの良好事例が出てくるようになっていること、また、夜勤交代勤務についての自主的なガイドラインを作り、できるだけこれを基準にして、自分たちの交代勤務のやり方をチェックし、ステップバイステップでやっていこうとする動きが出ていること等、労働環境を整備し、柔軟な働き方を進めて行こうとする動きもあわせて紹介されました。

これらの取り組みに対して、行政もそれを支援する形で動き出し、その結果として今年6月に医療介護総合確保推進法案が成立し、そこに「医療従事者の勤務環境の改善等に関する事項」が盛り込まれるに至ったこと。これにより一層の勤務環境改善に向けた取り組みが活発になったとのお話いただきました。

具体的には、改善を推進する体制を病院内に作り、PDCAサイクルのマネジメントシステムを導入しようと国に対して提言をし、実際に取り組み始められていること。さらに現場から出てくる様々な疑問等に対応できるよう、国が予算をつけて都道府県全部に推進促進センターを設置する動きが10月から順次スタートしている等です。

「地域で患者から選ばれる病院」とは、「職員の働き方を公開する病院」「公正な働き方をしている病院」であり、それが健康で安全をつくる病院である。究極の目的としては、患者とスタッフと経営者の3者がWinになるような取り組み、その中のベーシックとして雇用の質向上はとても大事である、と結論付けられました。

そして最後に、安全や健康は子どもの頃からの体験に加えて、教育の中でもあわせてやっていくことが必要ではないか、つまりシームレスな学びと安全が大事であると締めくくられました。

ご講演に続いて、会場からの活発な質疑が行われ、参加者にとって非常に実り多い講演会であったことをご報告いたします。


 


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