人間工学を社会の常識に!~安全で安心できる社会を実現するために~
【開催日】2011年10月29日(土)
【場所】三重県立看護大学・講義棟
【記事担当】大内啓子((財)日本色彩研究所)
概要
- 主催
- 一般社団法人日本人間工学会,一般社団法人日本人間工学会東海支部,
三重県立看護大学 - 後援
- 横断型基幹科学技術研究団体連合
- 期日
- 2011年10月29日(土)13:00~14:00
- 場所
- 三重県立看護大学・講義棟(三重県津市夢が丘1-1-1)
講演プログラム
- 演 題
- 「人間工学を社会の常識に!~安全で安心できる社会を実現するために~」
斉藤 進 (財団法人労働科学研究所理事/一般社団法人日本人間工学会理事長)
公開講座の様子
日本人間工学会の公開講座が2011年10月29日(土)13:00~14:00に、東海支部大会が行われている三重県立看護大学大講義室において開催されました。今回は、日本人間工学会と東海支部、三重県立看護大学の共催です。
2009年まで関東圏のみで公開講座を行っていましたが、昨年は関西の大阪工業大学、そして本年は初めての東海での公開講座となりました。さらに、学会の活動成果を広く社会へ還元し、人間工学の普及と実践活動の推進の推進を目的とした公開講座にふさわしく、Ustreamを利用したWeb配信の試みも、斎藤真大会長のご尽力により、実現することができました。人間工学の啓蒙活動という位置づけからも、まさに記念すべき公開講座であったと確信しています。
今回の講演は、「人間工学を社会の常識に! ~安全で安心できる社会を実現するために~」というタイトルで、斉藤進理事長による講演が行われました。司会は斎藤真大会長が務められました。
講演の最初は、「人間工学ってなに?」というお話からです。本講演の副題となっている安全・安心という2側面を提示し、「客観的事実である安全と主観的事実である安心とは、客観・主観という側面では異なるけれども、どちらも事実であることは共通している。問題は、対象が、どれくらい安全なのかが示されて、だから安心できるんだという、リスクに関する正確な情報を共有することなのだ」ということを、飛行機や自動車の安全、原発事故に関する情報公開やタイ洪水等々多くの事例をあげてお話しいただきました。
さらに、今年3月11日に起こってしまった原子力発電所の事故について、「人間工学会では、1987年の時点で、安全におけるヒューマンファクターの特集号を学会誌で組んでおり、その中で原子力発電所の危険性について発表をしているけれども、それが生かされなかったという反省がある。今回の福島第一原発事故から学ぶこととして、我々は事故の責任追及・誰がやったのかではなくて、どうしてその事故が起こってしまったのかという原因追究を行うべきである」とし、この表明は日本人間工学会からIEA国際人間工学連合および世界に向けて発信したことも紹介されました。
次は、人間工学のルーツについて、ヨーロッパやアメリカにおける人間工学の流れと日本における人間工学の始まりを比較しながらのお話です。人間工学のテキストで世界的にみて最も有名な、グランジャン著の「Fitting the task to the man」の中から、カバンの持ち方と酸素消費量の事例を示し、人間工学の考え方を、人間工学は初めてという方にとっても非常にわかりやすく解説をしていただきました。
続いて、人間工学会の活動についてです。「社会へ向けた人間工学の展開」として、[1]安全で安心できる社会を実現すること、[2]社会ニーズと学術ニーズに沿った展開を行うこと、[3]問題解決型のサクセスストーリーを提示すること、という3つの学会目標を示され、サクセスストーリーの提示の事例としてグッドプラクティスデータベースの活動を挙げられました。
さらに、人間工学トピックスとして、「繰り返される重大事故事例」、「ヒトとコンピュータ」、「子どもの人間工学」の3つを紹介していただきました。
初めのトピックスである「繰り返される重大事故事例」では、航空機のニアミスや東武線竹ノ塚での踏切事故、エスカレータにおける男児の挟まれ事故などを提示し、「人間はミスを犯すものである」という大前提と、フェールセーフなどの人間工学の原則が示され、人間工学を社会と子どもの常識とすることが必要であると提言されました。
また、三番目のトピックス「子どもの人間工学」では、製品と空間の子供のための設計についてと、学校におけるIT化の問題など、子どもを取り巻く問題事例を幅広く紹介され、中でも、最近では近視児童が日本のみならず、国際的にも増加していることなど、最新のデータを交えながらのお話をいただきました。
最後に、「ヒトの構造と機能は個人によって異なるし、同じ人間であっても、体調の良い時もあれば、すぐれない時もある。そのため、カスタマイズ(例えば、文字の大きさを使う人が見やすい大きさに合わせるなど)でき、且つ、調節可能であることが必要である」とし、「人間工学を社会常識とすることにより、安全で安心、かつ健康な社会実現に貢献できる」と結論付けられました。
以上が公開講座の報告になりますが、当日の公演の模様は現在もWebで閲覧することができます。是非とも、訪問していただき、公開講座の生の熱気を感じていただきたいと思います。
Webによる映像は、日本人間工学会のイベント情報のページから閲覧することができます。
※「イベント情報」
本公開講座には140名以上にも及ぶ非常に多くの方々にご参加いただきました。会場である大講義室には立見席が出るほどであり、本講座に関する関心の深さを痛感した次第です。