写真で辿る人間工学
日本人間工学会誌「人間工学」創刊号の表紙にトンネルの中の列車の運転席から撮影したモノクロ写真があります(右写真)。この運転席は1964年10月に開業した東海道新幹線のものです。それも、まだ開業前に行われた試乗会で撮られた貴重な写真で、車両は最近すべて引退した0系新幹線です。
日本人間工学会はこの新幹線の開業と同じ年の1964年12月に設立され、学会誌の創刊号は翌1965年1月1日に季刊誌として発行されています。 創刊号の特集は「東海道新幹線における人間工学」であり、新幹線の設計と運用システムにどのように人間工学が貢献したかが13ページの記事として載せられています。
第1巻3号の道路標識の特集では、新幹線と同時期に開通した首都高速道路を走行している車からの写真が掲載されています。高速道路の急なカーブの怖さや案内標識の不備、道路標識の見にくさなどが見事に写真に捕らえられています。
第3巻2号のダミーの特集では,航空医学実験隊のダミーを使った衝撃実験の様子が生々しく映っており、航空機の事故時の衝撃が目に迫ってくるようです。
第4巻1号は案内表示の特集ですが、副都心整備の一環としてこの頃完成した新宿西口地下広場の案内表示の様子がたくさんの写真で紹介されています。また、表示だけでなく、ここを歩く人々が影としてとらえられている写真は芸術性の高い作品となっています。
第6巻1号では、都市における公害騒音を特集に取り上げているが、騒音という視覚では捕えがたいものを、生活環境に入り込むトラックや航空機の姿から見事に写真に表現されています。
このように、学会誌「人間工学」の第3巻1号~第6巻1号まではほとんど毎号、写真を中心とした特集が掲載されています。また、表紙や「人間と機械(下写真)」と題した1枚の写真が掲載されているものもあります。下記に写真を中心とした特集記事一覧をまとめました。国内の人間工学の歴史を知るための貴重な資料です。「写真で辿る人間工学探訪の旅」にお出かけ下さい。
「人間と機械-Visual input & Cockpit instrument panel ©石松健男」 (人間工学vol2(2))
瞳を通じて写し出されるコックピット・パネル。
人間・機械系における感覚器・表示部のインタラクションを実に見事に表現している。
なお、それらの写真のすべては写真家・石松健男氏(1936-2008)によるものです。日本人間工学会第50回記念大会(2009、つくば市)では、「石松健男がとらえた人間工学―学会設立初期の「人間工学」誌写真―」として貴重な写真の数々が展示されました。それら写真は下記の「バーチャル・ギャラリー」でご覧頂けます。
巻号 | 特集 |
---|---|
1-1 | 東海道新幹線における人間工学 |
1-3 | 道路標識 |
3-1 | 国鉄の新系列ディーゼル動車の運転台 |
3-2 | ダミー |
3-4 | 人間と制御 |
4-1 | 案内表示 |
4-2 | 人体の“動き” |
4-3 | 人間・機械系シミュレータ |
5-1 | 人間工学的観点からみたクレーン |
5-2 | 自動車運転者の視知覚問題 |
5-3 | 航空機の緊急事態における人間行動 |
5-4 | 高圧装置による人体実験 |
5-5 | 船舶における見張・看視作業 |
6-1 | 都市における公害騒音 |
7-2 | 身体障害者リハビリテーション施設“太陽の家”にみる人間-道具系 |
バーチャル・ギャラリー
石松健男がとらえた人間工学
―学会設立初期の「人間工学」誌写真―
日本人間工学会第50回記念大会(2009、つくば市)にて展示された写真をご覧いただけます。
※画像をクリックしてギャラリーをご覧ください。
画像内をクリックして、次の写真を順次ご覧下さい。
- 1936年
- 大分県宇佐市生まれ
- 1958年
- 日本大学芸術学部写真学科卒業、写真家・阿部正二氏(日本肖像写真家協会会長)に師事
- 1960年
- フリーランサーとして独立し石松健男写真事務所設立、ネオダダイズム作家たちの記録取材
- 1970年
- 映画「煉獄エロイカ」吉田喜重監督作品のスチール写真担当
- 1976年
- アーティストユニオン結成参加
- 1980年
- 大分県宇佐市に帰郷
- 1997年
- 写真集「オフのゆふいん」出版
- 2006年
- 写真展「朝倉文夫1962年12月」東京朝倉彫塑館
- 2008年
- 大分県宇佐市にて逝去
ナビゲーション・ガイド
- 学会誌「人間工学」探訪の旅にでる
- 人間工学会の沿革を知りたい
- 人間工学の「歴史」を学びたい
- 写真家についてもっと知りたい(専門家部会報vol.19)