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人間工学とは

人間工学の歴史

人間工学の源流を辿る

人間工学(Ergonomics)という言葉は、ギリシャ語のergon(仕事や労働)とnomos(自然の法則)に由来しています。Ergonomicsが、1857年にポーランドの学者Wojciech Jastrzębowski氏により造語されたことは、ポーランド語に英語を併記した書籍が1997年に復刻され、広く知られるようになりました。

1857年は、わが国では黒船来航直後の時代で安政4年になります。

“労働”と“健康”の関連性、すなわち “働く”ことによってどのような“健康障害”が引き起こされるのかについては、古代エジプト、ギリシャ・ローマ時代においても多くの記載がされています。労働衛生的視点から労働条件と病態との関連性を初めて体系化したのが、イタリア人医師であったベルナルディーノ・ラマツィーニ(1633-1714)による古典的名著「働く人の病(De morbis artificum diatriba)」です。例えば、この書籍では金属鉱山労働者の病気として、粉塵による喘息・結核などの呼吸器疾患はさることながら、不自然な作業姿勢が身体に及ぼす影響についても言及しています。折しも18世紀からはじまる産業革命による工業化に伴い、労働と健康の関連性の解明は時代の時代の要請であったと思われます。

しかしながら、産業疲労の測定や労働の科学的管理の原則等、人間工学的な予防対策・手法・アプローチに関しては、20世紀初頭まで待たねばなりませんでした。

ポーランド出身の科学者Józefa Joteyko氏による英語版著書“労働科学の方法”が出版されたのは1919年であり、産業疲労の測定や労働の科学的管理の原則等が詳細に述べられています。

労働科学、88巻6号、189-219、2012
翻訳論文題名:人間工学のルーツ「ヴォイチェフ・ヤストシェンボフスキ著
エルゴノミクス概説-自然についての知識から導かれる真理に基づく労働の科学(1857年)」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/isljsl/88/6/88_189/_article/-char/ja
https://doi.org/10.11355/isljsl.88.189

「Ergonomji」(著者:Wojciech Jastrzębowski):人間工学の歴史
Ergonomicsを初めて定義したWojciech Jastrzębowski氏(1799-1882)の著書
An outline of Ergonomics, or the Science of Work, Central Institute for Labour Protection, Warsaw, 1997. ISBN:83-901740-9-X またはISBN:83-87354-59-7

日本語版(斉藤進ら訳)は2012年発行
「労働科学の方法」(著者Józefa Franciszka Joteyko):人間工学の歴史
ポーランドの科学者Józefa Franciszka Joteyko 氏(1866-1928)の著書
日本語版(芦澤正見訳)は2000年発行((財)労働科学研究所). ISBN-10: 489760107X  ISBN-13: 978-4897601076

もうひとつの潮流、Human factors

もうひとつの人間工学の潮流としては、第二次世界大戦以降の米国を中心としたヒューマンエラー研究があげられます。米国空軍機がロッキー山脈に激突するなどの事故が多発し、心理学・航空工学の専門家らによる調査チームにより原因の追究を行いました。その調査チームが到達した結論は、「高度計の計器のインターフェイスデザインが悪いために、パイロットは計器の読み間違いをしている」というものでした。人間の認知特性を考慮し、読みやすい一針高度計のデザインを航空機に採用することになりました。このように、応用心理学を背景として発展してきたのが、ヒューマンファクター(Human Factors)です。ヒューマンエラーの防止やわかりやすい・使いやすい製品設計など、公共機器・民生機器のみならず、医療・福祉・航空・交通システム・公共施設など、幅広い領域における安全・快適設計へと発展しています。

わが国における人間工学の源流、そして近代人間工学

わが国における人間工学研究のパイオニアと位置付けられる暉峻義等(てるおか ぎとう)氏を所長として倉敷労働科学研究所が設立されたのは、1921年のことです。同じ1921年には、田中寛一氏による「能率研究 人間工學」が発行されています。労働科学とは異なり、米国流の心理学を基礎として人間力を最も経済的に使用できる手法に重点を置いたHuman Engineeringをわが国に紹介した著作です。米国からは、1950年代以降も現在に至るまで、Woodson氏、McCormick氏、Sanders氏等による人間工学上の有名なテキストが出版されています。1963年には、Grandjean氏による名著“Fitting the Task to the Man”初版が出版されています。1996年にはIEAとILOが協力し、作業条件や職場改善等を分かりやすく図解した人間工学チェックポイントを出版しています。

各国各地域の人間工学に関係する学会等を組織した国際人間工学連合(IEA)は、1959年に設立されました。3年ごとに開催されるIEA大会は、ストックホルム、ドルトムント、バーミンガム、ストラスブール等、欧米諸国で開催されていましたが、1982年に東京、1988年にシドニー、2003年にソウル、2009年に北京などアジア各地やオーストラリアでも開催されています。日本人間工学会は、人材や基金の面でも、IEA活動に積極的に関わってきました。学会員はIEAの会長や役員を務めてきており、またIEAに設置された多くの科学技術委員会に参加するなど、可能な限りの貢献をしたいと考えています。


 


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