1. ISO規格と人間工学の普及について
ISO/TC159国内対策委員会委員長
青木和夫

 私がISO/TC159の国内対策委員長を務めさせていただいてから2期6年が経過しました.この間,多くの皆様のご協力をいただきましたことに心から感謝し,御礼を申し上げます.毎年多数の委員,分科会委員メンバーにエキスパートとして国際会議に出席いただき,国内委員としてはISO規格の審議に貴重な時間と労力を割いていただいてきました.委員長就任当初は資料や投票は大部分が紙ベースで行われており,毎回の委員会の資料の準備のためにコピー機が大活躍をしていました.しかし現在では資料は大部分が電子化され,委員会資料の準備や配布に関しては時間的費用的に大きく節約できるようになりました.

 一方,審議してできてきたISO規格を国内に普及するためにJIS化する作業も活発に行われてきました.このためISO国内対策委員会の中で対応していたJIS化に関する事項は,新たに設けられたJIS委員会においておこなわれるようになりました.さらに,JISハンドブックの1つとして「人間工学」が発行され,人間工学規格は世の中によく知られるものとなりました.

 また,近年になってからは,我が国の高齢化をふまえて,高齢者・障害者に対応する規格や法律の作成が行政からも要求されるようになってきました.国内ではJIS規格として高齢者・障害者に関する規格が次々と制定され,これらの規格を国際化する場としてTC159の人間工学が重要な存在となってきました.これらの提案に対し,TC159では「特別な配慮を必要とする人々」に関する技術情報(TR)の作成を担当するTC159/WG2を設立し,このWGのコンビナーは提案国の日本が引き受けることになりました.

 このような動きと並行して,経済産業省では,国際標準の提案件数の倍増と幹事国引受数を増やすことを国際標準化戦略目標として打ち出してきます.このため従来のISOをJIS化して国内に普及するよりも,新たなISO規格の提案や既存のJIS規格をISOとして提案することに力点が移ってきました.また,高齢者・障害者を対象としたJIS規格の作成にも力が入れられています.従って,今後の国内対策委員会の役割として,新しいISO規格の提案やJIS規格の提案を行っていくことに移行してゆくことが期待されていると考えられます.

 近年の様々な事故や健康障害の発生に人間にとって不適切なシステムの設計が原因として関わっていることをみると,人間工学が世の中にもっと普及すればこれらの事故を多少とも防げたのではないかと思います.人間工学を学問の世界だけに留めておくのではなく,人間工学の普及のためにISO規格とJIS規格の果たす役割は益々大きいと考えられます.



ISO/TC159 国内対策委員会
Last modified: May 18, 2007