平成26年度東海支部総会が2015年5月30日(土)に名城大学サテライトキャンパスにて開催されました。
[1]東海支部総会2015 15:00-15:30
- 総会議題
1.平成26年度(一社)日本人間工学会東海支部活動報告(案)
2.平成26年度(一社)日本人間工学会東海支部決算報告(案)
3.平成27年度(一社)日本人間工学会東海支部活動計画(案)
4.平成27年度(一社)日本人間工学会東海支部決算計画(案)
[2]特別講演 15:45-17:00
「女性がいきいきと働くための人間工学」
三重県立看護大学 教授 大平肇子 先生
支部総会の後に開催された特別講演では、三重県立看護大学の大平肇子さんに「女性がいきいきと働くための人間工学」と題して、ご講演頂きました。看護学の視点からの働く女性の健康について、月経随伴症状・不妊治療・妊娠の3つの項目を挙げてご講演いただきました。
まず始めに月経随伴症状について説明頂きました。月経随伴症状は月経前と月経中に起こる不快な症状全般を指します。古代と現代を比較すると長寿・高学歴化・晩婚化・出産回数の減少などの女性のライフスタイルの変化により、月経回数は約10倍になるとのことです。このことから女性が昔に比べて、より多く長い期間、月経随伴症状に悩ませられていることが分かります。
月経前には頭痛やむくみ、いらいらするなどの身体的・精神的な症状が起きますが、これらの症状を月経前症候群(PMS症状)と呼びます。PMS症状は自覚することが大事であると大平氏はお話されました。PMS症状を自覚し、リラックス呼吸法などのセルフケアを実施することで症状の緩和に繋がります。実際にPMS症状に対してリラックス呼吸法によるリラクゼーション効果を検証された実験をご紹介頂きました。実験においてPMS症状を有する被験者の心拍変動から算出した副交感神経活動の指標(HF)の値が、リラックス呼吸法の実施後では、実施前に比べ有意に上昇しており、実験結果からリラクゼーション効果が確認できました。
次に社会問題となっている不妊治療について説明頂きました。10組に1組が不妊症であるのが現状とのことです。35歳を過ぎると妊娠の可能性は減少し始める為、晩婚化、出産年齢の高齢化が進む現代では、不妊に悩むカップルが多くなったそうです。
不妊治療のひとつである高度生殖医療による出生児数の割合が増加している資料や、不妊治療の流れを示しながら、不妊治療を受けるカップルが徐々に増えていることが、不妊症の治療方法はケースバイケースであり、治療内容によって通院時期や期間が異なること、現代社会では職場の協力が得られず、仕事と治療の両立が困難であるケースがあること、また女性心理として、不妊であること、通院していることを知られたくない思いや、治療によって生まれた子どもへの偏見の不安があることを説明されました。働く女性の不妊治療には、休暇やプライバシー保護への配慮が必要なことから、職場の協力が不可欠です。不妊治療に関する職場における取り組みに関して労働厚生省の資料を示し、女性の社会進出と現体制がかみ合っていない現状と、労働環境が男性社会から男女社会へ変わらなければならないことを示されました。
最後に妊娠について説明を頂きました。胎児の写真を受精後から順番に示しながら、その都度胎児の状態を解説して頂き、次第に人の形をしていく胎児はまさに生命の神秘であり、その様子を分かりやすく理解することができました。体の主要機関が形成される時期は妊娠の初期段階でもあり、妊娠していることに気づかなければ薬剤・アルコール・放射能等に気を使わずに過ごしてしまう危険性があります。妊娠に早く気づくことが非常に大事であることを大平氏は示してくださいました。
私たちが行っている人間工学に関する研究は生後の身体負担の計測や軽減に関するものが多いですが、胎児の身体負担を考え研究することは、生後と同等以上に非常に重大なテーマであることを実感できました。
総括として、女性がいきいきと働くための人間工学の今後のテーマに、女性にとっても快適な労働環境・時間、産業保健・看護の活用、女性の身体的特徴を視野に入れた働き方と健康教育を挙げ、ご講演を終えられました。
聴講者は男性の割合が非常に高かったのですが、皆さん真剣に大平氏の話を聴いていました。大平氏が話された内容は、女性だけの問題ではなく、男女社会の社会問題であります。大平氏の話された内容、挙げられたテーマは聴講者の心に深く残り、今後の研究活動のみならず生活にも影響を与えるであろう素晴らしい講演でした。
松河 剛司(愛知工業大学)