日本人間工学会東海支部 若手人材支援企画2013

毎年恒例の企業との架け橋企画!テーマは「-架け橋企画もセカンドステージへ- “キャリアデザインいつやるの? 今でしょ!”」と題し、人間工学を学ぶ院生・学生にとって様々な進路やキャリアビジョンがあるということを伝えるために,参加者よりちょっと先輩の方々にご自身のキャリアを紹介して頂きました。 名古屋市立大学大学院の山田泰行先生に参加記を寄稿して頂きました。また、当日司会を担当頂きました神田幸司先生(名古屋工業大学)に参加者アンケートをまとめて頂きましたので、ご紹介致します。

[1]人間工学の若手が実践するキャリアデザインの極意とは?
―“企業との懸け橋”に参加して学んだこと―

  • 人間工学の研究者や実務者を志す若手の人材育成支援企画“企業との懸け橋”が今年も人間工学会東海支部大会で開催された。「キャリアデザイン―いつやるの?今でしょ―」をテーマに、人間工学の分野で活躍する4名の話題提供者が登壇し学生にメッセージを送った。人間工学がたくましく働くゼネラリストを育成してきた学際領域であることを改めて認識させられた特別企画であった。
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  • 日産自動車のデザイン部門で活躍中の羽深氏は、自身のキャリアデザインを野球にたとえ、「これをやる!というよりは、来た球を全部打ってきた」と振り返った。学生時代は自動車免許もデザイン技術も持ち合わせなかった羽深氏は、品質工学と統計解析の経験が評価されて入社を果たし(本当はそれらも苦手だったらしい)、人間工学会のコミュニティを通して活躍の幅を広げることができたそうである。まずはチャンスを逃さず確実にスタートラインに立ち、知識や経験の不足は後から補おうとする前向きな姿勢は、社会経験の乏しい中で就職活動を展開している学生たちを勇気づけるものであった。
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  • お茶の水女子大学に勤務する内藤氏は、色彩学や被服心理学を専門する若手研究者であり、現在は男女共同参画という新たな領域の仕事を任されている。「大学全体のデータを分析して大学運営に役立てるなど、研究活動のマインドやアプローチを男女共同参画の業務にも活用しています」と語る内藤氏は、授業でも女性のリーダーシップを被服との関連から論じるなど、専門分野の知識を活かしている。与えられた仕事が人間工学の内容であるかということではなく、いかにして人間工学の視点で仕事に取り組むかが大切であることを教わったように思う。
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    司会:神田幸治先生(名古屋工業大学)

  • 高原氏は、学生時代から臨床心理学、実験心理学、高齢者研究など複数の領域をまたぎ学際的に研究に取り組んできた研究者である。当時は「1つのことに集中できていない人」というネガティブな評価を受けることもあったそうだが、この評価は豊田中央研究所において「いろいろやっている人」というポジティブな評価に変わったという。企業の研究所で「自分の専門はこれだけどこれもやります」というオールラウンダーに囲まれて仕事をしたことで、自分のスタンスを肯定的に捉えられるようになったと語る。人間工学という学際領域で専門性の確立に悩む若手研究者にとって、高原氏のエピソードは大きな励みとなったことだろう。
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  • 松河氏は「打ち手も大切だが、ボールをたくさん投げてくれる人をつくることも大切」と語り、自分のキャリアを応援してくれる人たちの大切さを表現した。大学時代からプログラミングやインタラクティブコンテンツの作成に取り組み、CGデザインの技術も習得した松河氏は、それらのスキルを学会活動や大学のワークショップのコミュニティで発揮する中でメンターに出会い、現在のキャリアを獲得したという。参加学生に対しては「学会などでいろいろな仕事を頼まれることがあるかもしれないが、自分に来た話は全て受ける。受けなかった後悔より、受けた後悔があるうちはチャンスを逃さない」とアドバイスし、タイミングを逃さないことの重要性を強調した。
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  • 「人間工学を学ぶとどのような仕事に就けるのか?」を知りたくて集まった学生は、明確な回答を得られなかったことで物足りなさを感じたかもしれない。しかし、人間工学は職種ではないし、職を得るためのテクニックでもないのだ。ただ、4名の登壇者がそうであったように、人間工学のメンタリティによって切り拓かれるキャリアは確かに存在する。本特別企画を通して、少なくとも私はキャリアというものについて次のような教訓を得た:
    ①ゼロからのスタートを恐れない
    ②専門外の業務でも全力で取り組む
    ③学会のコミュニティを大切にする
    ④マイノリティスキルを磨いておく(統計、CG、これからはビッグデータ解析など)
    ⑤持っていないスキルは後から身につける
    ⑥応援者や理解者が増えてくる
    ⑦タイミングを逃さない(そのためにNOと言わない)。すると自然にキャリアが切り拓かれる。本特別企画の参加を契機に、次世代の人間工学会を担う者や、人間工学による社会貢献を果たす者が輩出されることを心から期待する。
話題提供者

【右上】:内藤章江さん (お茶の水女子大学リーダーシップ養成教育研究センター特任助教)【左上】:羽深太郎さん (日産自動車デザイン本部パーシブドクオリティ部 アシスタントマネージャー)【右下】:松河剛司さん (愛知工業大学情報学部 講師)、【左下】:高原美和さん (愛知淑徳大学人間情報学部 講師)

 

[2]参加者の評価

  • 参加者に対し、本企画について回答してもらった(回答数:33名)。回答者の約半数が「大変ためになった」、約4割が「ややためになった」と回答し、全体の9割近くから高い評価を得られた。

 

[3]参加者の声(感想、一部抜粋)
  • 話題提供者の方々のためになるキャリア、今後自分の将来のキャリアの参考になりました。・「受けた話は断らない」いい言葉だと思いました。(修士2年 男性)
  • 人間工学を活かせる職業に就きたいと思い、就職活動をしていたのですが、なかなかうまくいかず、結局、人間工学が全く関係ない様な就職先になりました。しかし、今回の企画で、4人の先生方のお話を聞き、きっと今は「人間工学とは何の関係もない仕事」と思っている仕事に対しても、何かしらの共通点(考え方など)を見つけ、「人間工学を学んだ者」として社会にアプローチして行きたいと感じました。(修士2年 女性)
  • 自分自身にあてはめてみて、とりあえず何かに挑戦する気持ちを常に大切にしていきたいと思いました。(学部4年 男性)
  • それぞれの経歴を聴くことは大変面白く、これからの自分の将来を考えていくことが楽しくなりそうだと思いました。就職活動に置いてポイントとなる点も少し分かり、役立てていきたいです。このような企画を開催して下さり、ありがとうございました。(学部2年 女性)
  • 博士後期卒の就職率の低さはある程度予想していたのですが、想像以上でした。また、大学入学当初から”研究者になろう!”と考えて大学生活を送られている方が講演者の方の中には少なく、驚きました。修士、博士後期と進むにつれ、進路を決定する際に人とのつながりが大変重要で、研究をしているだけでは良くないのだなと感じました。私は修士卒で就職するのですが、確かに自らの専門分野を活かしてという選択肢はほぼありませんでした。実際に全く関連のない企業で働くことになっているので、”専門分野を必要としている求人が少ない”という事にとても共感しました。(修士2年 女性)

  • 就職というのは、人生のうちの大半を占めるものであって、自分にとってとても重要なことであると感じています。その分不安も大きいものです。今日の講演会で4人の方々のお話を聞いて、大切なキーワードをいくつもいただきました。貴重なタイミングを逃さないようにこれから努力していきたいと思います。(学部2年 女性)
  • 普段過ごしていると、実際に社会で働いている方と接する機会が無いので、貴重な体験でした。つい学科で過ごしていると専門職を重視しがちだが、今回のお話を聞いて視野を広げることの大切さを実感しました。(学部2年 女性)
  • 2年にもなってやりたい事が見つからない私です。今回の講演を聞くまで、現実を見れず、今後の自分はどうなっていくのかが不安で仕方ありませんでした。しかし今回の講演で、私も社会に出て何かやれることはないかというのを考えられそうな気がします。大変聞いていて面白い講演でした。(学部2年 女性)
  • 私はアパレルを専攻していますが、アパレルの分野を学ぶにあたって、深い知識をもっていなければアパレル業界に入ってもついていけないんじゃないかという不安がありましたが、今回の話ではいろいろな知識をもっていることがよいという話があり、自信を少しもつことができました。ありがとうございました。(学部2年 女性)
  • 貴重なお話が聞けてよかったです。特に羽深さんのお話は大変興味深かったです。話し方もとても上手で見習わなければいけないことばかりでした。(学部4年 男性)
  • 4名の講演者の方々がどのようなキャリアを歩んできたのか、について貴重な話でした。それぞれの方が違う境遇を歩んでいながら人間工学に携わっている現状にとても面白みを感じました。意見としましては、4名の方々と人間工学との関わりをもう少し聞きたかったです(仕事内容や、苦労したこと、など)。(修士2年 男性)
  • 私は現在大学3年生です。就活において、いろいろと考えていますが、今見えているものが全てではなく、まだまだ知らない面白いことがたくさんあるのだと思いました。「人間工学」という言葉の知名度はまだ低いのだと感じます。しかし、決して必要とされていないわけではなく、上手にアピールできていないだけだと思いました。私も「人間工学」について説明ができないので、せめてどういったものなのかだけでも上手く説明できるようになりたいと思いました。(学部3年 女性)
  • 好きだと思えることや楽しいと感じられることがみつかるかもしれないから、今は興味のないことでもいろんなことをやってみようと思うようになりました。みつけたときに後悔しなくていいように、今できることをやり逃さないように過ごそうと思います。(学部2年 女性)
  • 将来のことで悩んでたけど、こうやって色んなお話を聞けてとてもためになったのでよかったです。自分も深く考えないで、色々なことにチャレンジしたり、話を聞くことも大事だなと思いました。(学部2年 女性)
  • 機会やタイミングを4人の方それぞれ掴んでいると感じた。本当にいろいろな道があることがわかった。”人間工学”を孤立させて考えずに、いろいろな知識を取り入れることも大切なんだと感じました。(学部2年 女性)
  • 卒業研究をキッカケに、方向性が変わったり、新しいことに気づいたり、という方が多くいたように感じた。私はこれからテーマを決めていくので、真剣に考えていきたいと思った。(学部2年 女性)
  • 複数の人々の話を聞くことで、考え方の方向性が1人1人違っていても良いということを強く感じ良かった。(学部2年 女性)
  • 貴重な体験を聞かせていただき、大変参考になりました。自分の体験や失敗などもマイナスにとらえるのではなく、プラスに考えていくことなどが必要なのかなと思いました。また、自分の経験をどう活かせるのかということを常に考えていくことが、自分のスキルアップなどにつながっていくことが理解できました。(学部4年 女性)
  • セカンドステージに進むためには、自分で明確な目標を持っておくことも必要ではあるが、その時のセカンドステージに進むための出会いなどタイミングや運命的なこともあるので、そのときにその出会いをつかみとることができるように、そのときまでに知識であったり情報であったりなどキャリアを積んでおくことが必要だと感じました。私は看護師になりますが、その後のステージについてはまだ考えたことはありませんが、セカンドステージに進むという出会いがあったときのために、看護だけでなく幅広い知識・情報をみにつけておきたいと思います。(学部4年 女性)
  • 自分が学んできたことや、自分が行いたいと思って社会に貢献することも一つですが、社会が何を求めているのか、などを考慮してそれに応えながら進んでいくのも一つの考えなんだということを考えさせられました。(学部4年 女性)
  • 大学に入ってしまったら、なかなか進路変更しずらいという印象を持っていたが、今回4人の方の話を聞かせていただいて、大学に入ってからでも様々な分野に進むことができるということを知ることができた。しかしみなさんそれぞれ進路を決める以前から、様々な知識や経験を積んでいらっしゃるので、やはり基盤をしっかり作っておくことはとても大切であると感じた。(学部4年 女性)
  • 人間工学を学ぶことを選んだ人たちの人生が知れたが、どれもこれも運要素が強い気がした。苦労もあったのだろうと思ったけれど…。将来の不安が少し強まった(成功者ばかり見てしまったがゆえ…)。やはり大学で学んだ事をそのまま職にするのは難しい気がしたので、そのことにとらわれる進路選択はこだわらないようにしたい。

 

若手人材支援企画の運営組織
コーディネーター
白井克佳(アイシン精機株式会社)、垣鍔 直(名城大学)、神田幸治(名古屋工業大学)、榎原 毅(名古屋市立大学)