企業の架け橋企画 レポート
No.3人間工学会東海支部「学生支援特別企画」
企業との架け橋 ~東海支部プログラム~
【日時】:2009年10月10日(土)12時15分~13時15分
【場所】:金城学院大学(JES東海支部2009)
人間工学会東海支部「学生支援特別企画」
「企業との架け橋」特別企画が開催されました
金城学院大学にて開催された「人間工学会東海支部2009年研究大会(2009年10月10日)」において、学部生・院生などの若手人材育成支援の一環として「企業との架け橋~東海支部プログラム~」が開催された。
- 編集・写真:
- 榎原 毅(名古屋市立大学)
- 原稿:
- 上西園武良(アイシン精機)
松岡 敏生(三重県工業研究所)
森島 美佳(岐阜市立女子短期大学)
東海支部の新たな挑戦
人間工学会東海支部大会の特徴、それは若手による発表が活発なことだ。諸先生方からの暖かいコメントに励まされ、多くの若手人材による研究成果が報告されている。また、初学者を対象とした奨励賞(高田賞)をはじめ、若手研究者の育成に熱心な地方会の先駆けといえる。
その一方、リーマン・ショクにはじまる昨今の未曾有の経済不況において、人間工学関連での人材採用は特に厳しい現実がある。大学で人間工学を学び、人間工学の専門性を活かした就職に就きたいと願っていても門戸は狭い状況にある。
― 東海支部として、将来を担う彼らを支援できないだろうか ―
横森求東海支部長(名城大学教授)および同役員の諸先生方の全面的な協力のもと、東海支部の新たな挑戦がはじまった。
学会でなければできないこととは?
この企画を進めるにあたり、「学生が知りたいこと」と「学会という組織だからこそ提供できること」とは何か、暗中模索の中、企画の検討が始まった。「タテマエではなく、企業で活躍している人の生の声や体験を伝えること」「失敗談や成功体験を語っていただくこと」「企業における人間工学の実践において、必要な能力や知識を当事者の声として伝えること」を通じて学生をエンカレッジできないか ―。何より、人間工学を活かした仕事をしている人の熱い思い、生きざまに触れる機会を提供することこそ、「自分も人間工学を活かすことのできる就職を目指そう」という原動力につながるのではないか、と。
この企画のキーとなる、その「熱い思い」を語ってくれる企業担当者の協力を得るために尽力してくれた功労者が、福田康明氏(名城大学教授)、斉藤真氏(三重県立看護大学教授)、松岡敏生氏(三重県工業研究所)だ。東海地域の産業特性を考慮することに加え、その広い人材ネットワークの中から、本企画趣旨をもっともよく理解してくれるであろう企業担当者を推薦して頂いた。浅井祐司氏(トヨタ紡織株式会社実験部)、佐藤廣幸氏(アイシン精機株式会社解析・制御技術部)、そして安田府佐雄氏(三惠工業株式会社開発部)の3氏である。
- トヨタ紡織株式会社 実験部 浅井 祐司 氏
- ‘85年愛知機械工業(株)に入社。車両開発部門で1BOX車のエアコンシステムとシート・内装部品の評価・解析業務に従事。’01年現トヨタ紡織(株)に転職。自動車用シートの乗り心地性能の評価・解析・先行開発など業務に従事。現在に至る
- アイシン精機株式会社 解析・制御技術部 佐藤 廣幸 氏
- 1980年にアイシン精機に入社以来、自動車及び生活系商品の計測、評価、解析業務に携わってきました。その中でも特に感性品質の定量化等の業務に携わり、現在はCAEなど解析業務全般を担当。
- 三惠工業株式会社 開発部 安田 府佐雄 氏
- 三惠工業株式会社は,三重県鈴鹿市に位置する中小企業. 折りたたみチェア,会議用チェアなど各種オフィス家具を通じて,人と生活環境,人と地球環境を優しく結ぶ商品を製造.イスを鈴鹿の名物にすべく日夜、企画,開発から,製造工程まで,幅広い業務を担当。
3氏による全面協力を得て、本企画はいよいよ実現する運びになった。後は「どのように学生を集めるか ― これが最大の課題」である。例え興味深い企画であっても、学会主催による企画は学生にとってはやはり敷居の高いものである。インターンシップや企業訪問などのような形式にこだわらず、ざっくばらんに企業・学生間で意見交換できる場とするためにはどうするか。
我々が行き着いた結論、それはもっとも本能に働きかける(?)「幕の内大作戦」である。人はおいしいものを食べているときは、だれでも笑顔になり、会話もはずむ経験を持っている(はずである)。小学校でも給食は班ごとにテーブルを囲んで「いただきます」をしていたではないか、と。このまりにも安易な発想の企画も、「ランチョン・ラウンドテーブル形式」とカタカナにするだけで”もっともらしくなるのは、まさに日本語のマジックである。
このようにして、企業担当者1名と企画コーディネータ1名がひとつのラウンドテーブル担当になり、テーブルあたり6名程度の学生を囲んだ「企業との架け橋」企画がスタートした。なお、各テーブルにてコーディネータを担当したのは、森島美佳氏(岐阜市立女子短期大学)、上西園武良氏(アイシン精機)、松岡 敏生氏(三重県工業研究所)である。
技術のタコツボ化と企業の人間工学 ― 佐藤氏
アイシン精機の佐藤氏のテーブルでは、自己紹介と米国駐在を含めての経歴、人間工学とのかかわりについてご紹介頂いた。失敗経験は貴重であることを熱く語って下さった。佐藤氏が入社した時に比べると、最近は技術が高度化し、「技術を深く知っているが、広くは知らない」といういわゆるタコツボ化が進んでいる現状を紹介いただいた。そのために若い人に失敗経験をさせて、幅広い技術の必要性を知らしめるチャンスが少なくなっているのは残念とのこと。また、アイシン精機の藤森社長も、「今後は人間中心の技術をもっと開発すべきだ」との話をされ、人間の特性を知っていれば、この観点からの指摘や発言をすることができ、技術者としての大きな強みになると語った。企業に於ける人間工学の重要性を語る真剣なまなざしに、参加学生は勇気づけられていたようだ。
シートの人間工学、そしてライフ・ワークバランス ―浅井氏
トヨタ紡織の浅井氏のテーブルでは、紡織関連ということもあり、多くの女子学生が集った。浅井氏は車のシートに関する実験を中心に、人間工学を活かした評価実験を担当されているとのこと。話題は女子学生が不安に感じている ― 仕事と家庭の両立 ― についても話題が展開した。浅井氏の勤めるトヨタ紡織では男性も育児休業がとれることを紹介。浅井氏は、前職(愛知機械工業)で育児休業を取得し、男性では第一号が自分であったことも紹介いただいた。働く女性・男性のワーク・ライフバランスを尊重している企業実例の体験談は、今後就職活動をする学生に大きな励みとなったようだ。また、自発的に資格取得に向けて勉強することは関連分野を勉強するきっかけになること、国際化が益々進むビジネス実践においては、いかなる領域でも英語は必須であることなど、実体験に基づく話題を紹介頂いた。優しく語りかけるまなざしと暖かい口調に終始和やかな意見交流が行われていた。
あきらめるのではなく、創意工夫すること。 ―安田氏
三惠工業は三重県鈴鹿市に本社を構え、創業以来「イス」一筋に事業を展開している。開発部部長の安田氏からは人間工学を活用した製品開発事例、製品の評価事例を紹介していただいた。自社での実験の他、外部機関(公設試験所)との連携協力など、実践的な業務実例も紹介。また、中小企業の強みを活かした「企画・設計・製造の密な連携」による実践例にふれ、多様化する様々な顧客要求に対応するためには密な連携が不可欠であること、そして、企画の段階で「できないとあきらめる」ことはなく,「できるように創意工夫」することの大切さを熱く語って頂いた。
今回、初めて実施したランチョン・ラウンドテーブル形式による「学生と企業の架け橋」企画は、参加学生からも高い評価をいただいた(詳細は下記欄)。この新たな挑戦の真価は現段階では定めることはできないが、本企画がきっかけとなり、将来、参加者の多くが人間工学を担う人材として活躍してくれることを切に願うものである。― 人間工学会東海支部はみなさんを応援しています ―
参加学生による感想(参加者数:17名)
- 「トヨタ紡織」テーブルへの参加学生より
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- トヨタ紡織での仕事の話や仕事を通してのライフスタイルの話を伺えて良かった。もう少し人間工学についての話ができたらよかったと思いました(三重大学 男性 院生)
- 色々なお話を聞けて、就職活動前にしておいた方が良いこととか、とても現実味を持って考えることができました。ありがとうございました(金城学院大学 学部2年)
- 育児休暇のことも聞けて、社会に出ることが前向きに考えられるようになりました(金城学院大学 女性 学部2年)
- 就職活動で気になっていた育児休暇についてお話を聞くことができ、大変勉強になりました(金城学院大学 女性 学部3年)
- 貴重なお話を大変身近な距離でお伺い出来てとてもおもしろかったです。ありがとうございました。(椙山女学院大学 女性 修士1年)
- シート中心のお仕事をされており、自分が学んでいることに近いことをされているということでとても参考になりました。とてもわかりやすく、変な質問にも答えて頂きありがとうございました。(金城学院大学 学部3年 女性)
- 普段企業の方のお話をお聞きすることがないのですごく良かったです。男性でも育児休暇を実際に取っていることを知ったのに驚きました。すごくやさしい口調で聞きやすかったです。(金城学院大学 学部3年 女性)
- 「アイシン精機」テーブルへの参加学生より
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- アイシン精機の佐藤さんと上西園さんとの昼食会の中で、「仕事」や「働く」ということについて考える良いきっかけが得られました。会の始めにお話頂いた佐藤さんのアイシン精機の仕事の紹介の中では、仕事の楽しさ、働く楽しさをテーマに、これまで佐藤さんが参加された壮大なプロジェクトについて伺うことができました。凍りついた湖の上でのABSシステムの実験や周辺監視システムの開発の裏事情など、普段私達が耳にすることのできないようなお話がとても印象的でした。佐藤さんの仕事の紹介の後には、学生の日常と仕事に関連した話題に移り、特にインターンシップの話では、とてもリアリティのある貴重なアドバイスを頂きました。「企業との架け橋」の会を通じて、実際に働いている方々からの生のお話を頂くことで、会社で働くことの楽しさを垣間みることができたと感じています。今後もこのような機会があれば、是非参加させて頂きたいと思いました。(修士1年 男性)
- 「企業との架け橋」という貴重な企画に参加させていただき、ありがとうございました。大変参考になりました。特に、あえて「研究活動の中での失敗談」などをお話しいただことなどが、勉強になりました。また、企業での研究体制や社会人の・研究者としての心構えなど多岐にわたって話を聞くことが出来ました。(名古屋大学、博士1年男性)
- 「三惠工業」テーブルへの参加学生より
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- 企業の方から話を聞く上で、昼食を食べながらという、すごく和やかな空気のおかげでこちらからも気軽に自分の研究内容を話したり、質問をすることができました。 またオブザーバーとして同席していただいた松岡さんから企業側の情報(現在の動向など)・学生側の情報(現在の研究内容など)を、要所要所でうまく話題として振っていただいたおかげで、話をスムーズに進めることができたと思います。 人間工学を専攻する人間として、企業説明会では説明がない、質問するには専門的すぎる企業の中での人間工学の考え方や応用先、その分野で求められる人間像などが、今回の「企業との架け橋」では深く知ることができたと思います(名古屋市立大学 博士課程4年)
- 普段の勉強・研究だけでは分かりにくい、実社会や企業での人間工学に対する考え方・捉え方も聞くことができたのは、大変参考になりました。特に、三重大学・三重県工業研究所との共同開発の話や、いす作りのプロセス、こだわりが印象に残っております。また、普段では聞けないような裏話も聞けて大変楽しかったです。ありがとうございました。(名古屋市立大学 ポスドク)