人間工学測定技法講座 第13回レポート

 

第13回:「【特別企画】あなたもできる!統計解析が苦手な人のための超入門講座 –無料統計ソフト「R」の基本をマスターしよう–」参加報告

■開催日時  2017526日(金) 9:3017:00
■開催場所  TKP東京駅前会議室 カンファレンスルーム1
■参加者   45名

講師プロフィール


榎原 毅
名古屋市立大学大学院医学研究科 講師
博士(医学)。名古屋市立大学大学院医学研究科満期退学。専門は産業人間工学・作業関連疾患予防策、産業疫学統計ほか。
(一社)日本人間工学会副理事長・東海支部役員・人間工学誌副編集委員長ほか。


松田 文子
公益財団法人大原記念労働科学研究所 特別研究員
千葉工業大学大学院工学研究科経営工学専攻修了、博士(工学)。専門は人間工学、労働科学、産業心理学、安全工学ほか。
(一社)日本人間工学会広報委員長・関東支部役員ほか。

 


山田 泰行
順天堂大学スポーツ健康科学部 助教
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科単位取得後退学、博士(スポーツ健康科学)。専門は、データサイエンス、科学コミュニケーション、スポーツ人間工学など。
人類働態学会事務局長ほか。

参加報告

大阪市立大学大学院生活科学研究科 永井 正太郎

 2015年の11月より日本人間工学会東海支部にて開催されている実務者・初学者のための人間工学測定技報講座の第13回講座が2017年5月26日にTKP東京駅前会議室にて開催されました。今回の講座では「【特別企画】あなたもできる!統計解析が苦手な人のための超入門講座 –無料統計ソフト「R」の基本をマスターしよう–」と題して、東海支部に加えて日本人間工学会関東支部・人類働態学会共催のもと東京で行われました。近年、様々な分野で幅広く使われている無料の統計ソフトであるRの講習会ということもあり、学生や研究者を問わず、また大阪から参加した私を含め日本全国より参加者が集まりました。今回の講座で使用したのはEZR[1]というソフトで、Rをベースとして開発されたR Commanderに医学系や人を対象とする研究でよく使われる機能が追加されたものです。

名古屋市立大学の榎原毅先生、大原記念労働科学研究所の松田文子先生、順天堂大学の山田泰行先生が講師をされ、名古屋工業大学の神田幸治先生と順天堂大学の川田裕次郎先生がサポートとしてついておられました。前半は「私にもできそう」という実感を得ることを目標に山田先生と松田先生が担当をされ、最初にEZRを使う上でのデータ形式についての注意点やExcelを用いて作成したCSVからEZRへデータをインポートする手順について説明をされました。

データの作り方・取り込み方を学んだ後に、いくつかの統計解析手法をその場でデータを採りながら統計解析の体験をしていきました。

まずは、小分けにされた柿ピー1袋に入っている柿の種とピーナッツの数をいくつかのメーカーで比較するという身近な題材をもとにt検定と一元配置分散分析による解析を体験しました。人間工学の測定技報ということもあり、対応のあるt検定と一元配置分散分析による解析では、その場で測定した定規を使った反応時間、Pearsonの相関係数では講習会参加者の身長と作業域、χ2検定を用いた名義変数の関連性では参加者を対象にしたアンケート(性別と椅子の座り心地、眠気に関する主観評価等々)をそれぞれ題材として解析手法を体験しました。

その場でデータを採りながらであったため、実際に実験データの解析を行う際と同様に、想定した通りに有意差や相関がみられるかどうか、という期待と不安の入り混じった感覚も体験しつつ、EZRを用いた統計解析手法について一連の流れを習得することができました。

後半は体験するということに重きを置いた実習形式から一転して、統計解析に関する理論的背景を基礎から学習する講義が榎原先生により行われました。まずは、基礎的な内容の確認として平均や標準偏差の確認から始まりました。講座名では「超入門」と書かれていますが、内容はとても幅広く、例えば平均値だけでも平均値の歴史にはじまり、一度は習ったことのある内容でも、つい忘れがちな算術平均や幾何平均といった平均値の種類やAverageとMeanの違いなどが説明され、内容は多岐にわたっていました。次に仮説検定の基礎では、論文や学会発表でよく使われる仮説検定がどのような理論的背景のもとで行われて説明されたうえでp値の持つ意味が解説されました。

ここでも、一度は習ったことのある内容を再確認することができ、一部でみられるp値に対する誤解や検定の多重性問題についてもより理解することができました。仮説検定が少数のサンプルから全体を推測するために利用されてきたことが解説され、サンプルとなる参加者やデータを容易に集めやすくなったこととサンプル数が検定力に及ぼす影響が近年注目されつつあることとの関連性を挙げ、要因として理論的背景に対する理解の不足があると指摘されました。また、近年では帰無仮説有意性検定の是非への議論があり、p値の報告と併せて効果量または信頼区間の記載が米国心理学会では推奨されていることが紹介されました。統計ソフトを利用することで容易に分析ができるようになった反面、統計に関する歴史的背景と理論的背景に対する理解の必要性、そして知識のアップデートや関連する学術コミュニティの動向に対して関心を払うことの重要性を改めて実感しました。

統計学の多くの講義や講習会では、理論的背景の解説をまとめて行った後に実習、または理論的背景の解説と実習を同時に行うということが多いように思いますが、「楽しみながら」そして「私にもできる」ということを実感するために、従来とは逆の実習の後に解説という方法が行われました。目標通り「私にもできる」ということを実感できましたが、それだけでなくp値に対する誤解や有意差に対する過度な期待を冷静に捉えるという点でも、有意義だったように思います。知識としては知っているという人でも、なんとなく有意差というものは知っているという人でも、やはり気になってしまうp値ですが、実習で取り扱った上で、理論的に学習することにより一段と理解が深まりました。

[1]自治医科大学附属さいたま医療センター血液科 : 無料統計ソフトEZR(Easy R), http://www.jichi.ac.jp/saitama-sct/SaitamaHP.files/statmed.html , 2017年6月13日閲覧

 

受講者アンケート結果

本日の講座に関するご質問・ご意見など(一部抜粋)

<受講生の声>
[講座についての質問、意見、感想]
・大変勉強になりました。仕事でも役に立ちそうです。
・苦手にしていたことが少し理解できて、これからの研究活動が前向きになると思います。この様な機会に感謝しています。ありがとうございました。
・榎原先生のレジュメの後半部分について別の機会に補完してもらえないでしょうか。
・手厚くご指導いただきありがとうございました。
・多重比較や交互作用の解釈の仕方についても勉強したかった。
・Mac とWindows とでEZR の仕様が違い、捜査に時間をとられ、講義に付いて行くのが精一杯な時があった。
・説明が少なかったところの、続きの講座をぜひ開いてほしい。とてもわかりやすく、楽しめる内容だったので、良さを感じた(初学者向けの内容としては最適だと感じた)。
・講義と実践を交互にやっていただけた方がよかったかなと思いました。
・t検定について、基本とは思うのですが、もやっとしていたものが少し解決できました。実験を通してのデータ入力が理解を助けるのにとても役立ちました。p 値教になっていましたが、サンプル数が大きければ、<.05に近づくというのが理解できました。
・参加者のデータをベースに、Rによる統計解析を実習頂き非常によく理解できました。資料もていねいに作成してあり、後日自分だけでも統計解析ができると思います。ありがとうございました。
・超入門者に対しても手厚くていねいに説明、サポートをしていただき、感謝します。楽しく、イメージを作ることができました。
・とても丁寧な講義で、あきることなく学べました。
・無料で使いやすいソフトの使い方がわかり大変参考になりました。統計の説明がわかりやすく、なんとなく使っていたものがはっきりしました。
・今まで深く理解せずに解析ソフトにまかせた状態で進めていた。その為、今回の講座を通じて理解することで今まで何をしてきたのか深く理解できるようになり、良かった。まだ分からない所もあるため、今回得た知識を元により深くまで理解していきたい。
・最後の講義がかけ足になっていましたので、もう少しじっくり聞きたかったです。実験は非常にわかりやすく楽しめましたが、実験の割合を少しへらしても良いと思います。
・非常に有用な講座と思いますので定期的に開催頂きたい。東海支部(地区)でも開催頂きたいです。
・大変わかりやすい講義でしたが、もう少し要点をまとめて頂けると理解しやすいと感じました(解説編について)。ありがとうございました。
・最後の講座が長時間だったので、途中休けいがあるとより集中することができたと思いました。とても参考になりました。ありがとうございました。
・続編を続けてほしい。
・実際に実験を行っての検定でしたので、非常に理解しやすく面白かったです。・もっと自分で統計の勉強をしようと思いました。
・本日はありがとうございました。
・その場でデータを探りながらの実習だったので、とても理解しやすかったです。また、最初にEZR を用いた実習を行っていたので、まさに今回の講座で目指す「あなたもできる」を実感できたように思います。
・しっかり理解できてはいないが、統計学の触りを知れてよかった。
・最初は難しそうな印象がありましたがとても楽しく学ぶ事ができました。
・非常に内容が詰まっていて、頭が一杯になるくらい充実していました。これを生かしてこれから努力していきます。
・「何となく知っている」という点が多かったのですが、本日の講座ですっきりと理解できるようになりました。修論を書く上で統計は必須なので、更に自分でも勉強していきたいと思います。
・後半(15:00以降)の理論的な話、よく分かりました。ありがとうございました。
・修士論文に向けてとても参考になる講座でした。ありがとうございました。
・とてもためになる講座でした。
・とても丁寧に実践を含めた講座をしていただき、今まで分からなかった部分も理解できました。今後の研究に生かしていけるようにしたいです。
・本日は貴重な講義をお聞きすることができました。とても分かりやすく説明して頂いたので、理解しやすかったです。
・会場が多少狭いと感じた。

[今後の測定技法講座への要望、意見]
・ビッグデータ時代のデータハンドリング手法について
・多変量解析についても、ソフトを操作しながら勉強したい。
・単回帰、重回帰、GLM、GLMM、その他多変量解析などの入門講座
・『多変量解析』の主な分析手法を例を挙げ解説していただけるとありがたい。(かつて投稿論文を書いていた頃、“重回帰”を乱用(笑)していたが、当時その原理原則を余り理解していなかったので)
・本日は行わなかった重回帰分析やロジスティック回帰の実例を企画していただきたいです。
・実際にデータ収集を行うと欠損があったりどれくらいあつめられるかなどが問題になるので、データ収集の事例やコツを聞ける講座があればと思います。
・「サンプルサイズの設定」に重点を絞った講座を希望します。特に、名義変数(ユーザビリティテスト、アンケート、破壊試験)の場合、EZR のサンプルサイズ計算の実習と使い方。是非、東京での開催もお願いします。
・脳波、脳血流、顔表情、脈拍、心拍、etc.人間のバイタルサイン全般の測定技法と注意点
・レベル別で講座があれば、もっと面白いだろうなと感じました。
・実際の尺度を使った実習をやっていただければと思いました。
・資料として、主要の単語の意味をまとめた単語集などがあると講座後も役に立つと思います。