第12回:「製品の「心地」を評価する:ヒトが触れるモノを例にして」
■開催日時 2017年5月19日(金) 16:30~19:30
■開催場所 オフィスパーク名駅プレミアホール会議室
■参加者 3名
講師プロフィール
松岡 敏生
三重県工業研究所 プロジェクト研究課長
博士(工学)。研究領域は,繊維工学・感覚計測など。日本人間工学会東海支部役員
概要
衣服の着心地や靴の履き心地,ベッドの寝心地やいすの座り心地などの「心地」を測定することは,人の感性を研究したり,現場で製品設計や開発を行ったりする上で,人間工学にとってきわめて重要なアプローチのひとつです.その「心地」の指標の一つとなる接触圧について,基本的な事項を学ぶとともに,実際の測定機器やツールを利用した体験実習を行いました.
講座の前半では,松岡敏生先生(三重県工業研究所)から人間の5つの感覚,特に触知覚(皮膚感覚)について概説いただきました.感覚された刺激は知識情報と感性情報のそれぞれの処理を受け,後者の情報が「心地」を生み出すこと,その感性に基づいた製品設計を行うのが感性工学研究であることを説明していただきました.その感性情報を測定する手法には,主観的な評価用語を使用する官能検査,対象物の物理量計測,製品使用時の生理量計測があり,これらの手法を組み合わせることで「心地」を数値化し,製品設計を行う必要があることを解説されました.その一例として,官能検査には品質検査を目的とした専門家による分析型と,嗜好やイメージ調査のために一般人を対象とした嗜好型が存在することや,その手法には順位法,一対比較法,SD法などがあること,その実験計画としてシェッフェの方法やその変法を使用することなどを整理していただきました.
最後には本講座のメインである接触圧計測について,OA椅子の座面横Rと座り心地の関係や車いすの座面及び背もたれ角度と座り心地の関係,スーツの着心地に関する研究例を題材にして,具体的なデータや実験結果を交えつつ,接触圧測定の実例をわかりやすく紹介していただきました.
講座の中盤では後藤昇一氏(ニッタ株式会社)から,接触圧を計測するための面圧力分布測定システムについて解説いただきました.センサシートに使用される薄膜センサの仕組みや構造,データのサンプリングレートなどに関する基礎事項と,座位圧分布,臥位圧分布,把持圧分布,歩行・走行圧分布,静止立位圧分布などの各測定事例を豊富な画像資料で紹介していただきました.次に,センシングピッチの異なるセンサシートによって測定結果がどのように異なるかについて,わかりやすく説明していただきました.また全身体圧分布の測定を例にして,そのピッチの異なるシートを組み合わせたシステム構成について解説していただきました.
後半ではセンサシートを実際に使用して,受講者に接触圧の測定を体感していただきました.はじめに椅子にセッティングしたシートとソフトウェアを用いた座面圧計測の実際と留意事項を,様々な座位姿勢でデータを取得しながら松岡先生に解説いただいた後,後藤氏のご指導により,タクタイルセンサシステムによる把持圧測定,静止立位圧測定を実際に行いました.把持圧測定(GRIPセンサー)ではセンサが装着されたグローブをはめた受講者に,ペットボトルや缶,ペン,レーザーポインタ,鞄など様々なアイテムを持っていただき,その把持圧の違いを測定しました.
静止立位圧測定(フットビュー SAM)では開眼時および閉眼時の立位圧を計測し,左右の足にかかる圧力の違いや重心動揺の測定手法について説明いただきました.実習の最後には,センシングピッチの異なる2種類のセンサシート(CONFORMat,Conform-Lite)を椅子座面に設置し,受講者が座り比べることで両者の計測データの違いやシートの沈み込みに対する圧力計測の精度を確認して,本講座を終了しました.
講座で強調されたのは,何を測定したいのか,測定したデータを基にして何をやりたいのかという研究目的によって,センサシートの選択が変わってくるということでした.これは人間工学で必要とされる測定全般でも同様であり,研究の妥当性という点で非常に大切なことであるといえます.
今回の受講者数は少なかったものの,実際の計測機器を使用した実習時間を十分に用意したことから,質問も多くいただき,普段では学ぶ機会があまりない内容が盛り込まれた実り多い講座となりました.マニュアル本のようなテキストには掲載されていない,測定に関する様々なノウハウについても数多く紹介がありました.また,長期にわたる測定では実験参加者も太ったり痩せたりしないように体型を維持する必要があること,接触圧センサによる姿勢分析が歯科医の先生方に大切であること,水の張ったバスタブでの床面圧力測定に関する経験話,アスリートの足圧分析や自動車シートの設計に関する興味深いトピック(ここでは決して書けません),静止立位圧計測のフィードバックが意外なリハビリに繋がることなど,「ものさし屋」としての後藤氏が現場にいることで初めてわかる様々な事例や話題なども多数ご紹介いただき,きわめて貴重な話を伺うことができました.把持圧測定実習では意外な指が重要な役割を果たしているという,当日の参加者ならではの気づきと驚きもありました.
受講者のご意見にもありましたように,次回は測定された接触圧データの解析手法についての講座が強く望まれます.
今回の講座開催に当たり,多大なるご協力をいただきましたニッタ株式会社の平田圭司様,後藤昇一様に深く感謝します.
受講者アンケート結果
本日の講座に関するご質問・ご意見など(一部抜粋)
参加人数が少数のため,自由記述のみ掲載します.
本日の講座に関するご質問・ご意見など
・解析手法に関する説明をもっと聞きたかった.
・圧力センサについて,初学者でもわかりやすく,楽しんでお聞きすることができました.
・使ったことのある計測機器の話でしたが,いままでとは異なる視点での実例を聞くことができたり,機器に対する理解がより深まったように思います.