人間工学測定技法講座 第7回レポート

 

第7回:「人間工学研究で用いる統計解析tips:投稿論文でよく誤用されること。」

■開催日時  2016624日(金) 16:0019:00
■開催場所  三重県立看護大学(JES57 回大会会場)講義棟2階 中講義室3
■参加者   25名
人間工学誌に投稿されてくる論文で、採否を分ける大きな要素となっているのが統計解析です。人間工学研究で扱われる実験計画や統計解析、結果の解釈についてよく誤用されていること、注意すべきポイントを分かりやすく解説します。また近年では統計専門家による実験プロトコルの事前評価や研究仮説の検出力の検討などを要求するジャーナルも増えてきており、学術コミュニティで近年要求されている統計手続きのトレンドも紹介します。

講師プロフィール

ebara榎原 毅
名古屋市立大学大学院医学研究科 講師
博士(医学)。名古屋市立大学大学院医学研究科満期退学。
専門は産業人間工学・作業関連疾患予防策、産業疫学統計ほか。
日本人間工学会理事・「人間工学」誌副編集委員長。

概要

07-1人間工学研究で用いられる統計解析について,主に生物統計の初学者から中級者を対象に,統計tipsとしてポイントを紹介しました.いわゆる私たちが研究で頻繁に用いる「p値」を扱う統計的仮説検定(Null Hypothesis Significant Test)の基本的な考え方をt分布の事例を用いて説明し,サンプル数が多くなればわずかな差であっても有意差が示されてしまうなど,p値が示す可能性と限界について紹介しました.また,論文で誤用されるt検定の繰り返し問題を解決する多重比較の仕組みなど,前半では基本的な事項を分かりやすく解説しました.

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本講座の後半では,「統計7 tips」として,論文で誤用されるポイントを7つに絞り紹介しました.1つ目は「記述データで因果関係を論じてしまう」という点です.度数・割合が高いことで因果関係が論じられると誤解しているケースが散見されることや,ポジティブ・コントロールを設定することの重要性を事例を基に解説しました.2つ目は「有意差がない=効果は同じ」,3つ目は「サンプルサイズ設計が不適切」という点について,αエラー,βエラーやサンプルサイズ導出の関数,効果量から紹介し,統計的仮説検定の限界について正しく理解した上で統計を用いることの重要性を説明しました.4つ目は「欠損値・外れ値の処理」についてです.近年ではレスポンスバイアスの影響を考慮し,これらの処理手続きが重要視されてきていること,また,どのような処理方法があるのかを概説しました(近年では多重代入法が推奨されていますが,この内容については別の機会で本講座にて扱いたいと思います).その他,5つ目として「データのばらつき・サンプル数」,6つ目:「誤用しがちな相関分析」,7つ目:「とにかく多いANOVA(分散分析)の誤用」として,各トピックのtipsを紹介しました.

07-2

最後に,今後求められる統計手続きの動向として,主に医学系研究(臨床試験など)で扱われている手続きが将来,様々な分野へ波及してくることを踏まえ,解析手順書(SOP)やスクリプトファイルの保存(トレーサビリティ担保)など,近年統計手続きで採用されている動向を紹介し,受講者との質疑応答を行いました.

日本人間工学会第57回大会の前日に大会チュートリアル企画として開催したこともあり,受講生は東海地方以外にも九州,北海道,大阪,京都,静岡,岡山など全国から集まっていただきました.

受講者アンケート結果

アンケート講座内容の満足度については、62%の方が非常に満足、38%が満足と回答いただいております。また、講座内容の理解度についても、非常によく理解できた・理解できたと回答した人が86%でした。

■本日の講座に関するご質問・ご意見など(一部抜粋)

・初学者向けの統計は今後も実施して欲しいと思いました。テーマを絞って行うと時間が足りなくなることはないと思います。サンプルサイズ設計に関しては気になっていたので分かりやすかったです。ありがとうございました。

・統計だけではなく、研究で必要な事柄について、シリーズで講座を開催いただければ有難いです。

・効果量など自分で調べて勉強していた部分のお話を聞けて、とても勉強になりました。

・知らないことがたくさんあり、大変勉強になりました。若手の研究者が聞けるととても勉強になると思いました。

・貴重な講座を大会前に開催して頂いて感謝しています。・できれば、アクセスの便の良い場所で開催して頂きたい。

・今まで、ぼんやり分からなかったことがクリアになりました。研究計画の階段がいかに重要かということがよく分かりました。今後の研究に活かしたいと思います。有難うございました。

・講義内容について、後半は難しかった。

・後半部分、特にANOVAの誤用などをもっと詳しく聞きたかった。