平成27年度東海支部総会 レポート

平成27年度東海支部総会が2016年5月28日(土)に名古屋市立大学北千種キャンパスにて開催されました。

[1]東海支部総会2016 15:00-15:30
  • 総会議題

1.平成27年度(一社)日本人間工学会東海支部活動報告(案)

2.平成27年度(一社)日本人間工学会東海支部決算報告(案)

3.平成28年度(一社)日本人間工学会東海支部活動計画(案)

4.平成28年度(一社)日本人間工学会東海支部決算計画(案)

 

[2]特別講演 15:45-16:45
「アパレルの着やすさと美しさを求めて」
椙山女学園大学名誉教授 冨田 明美 先生

支部総会の後に開催された特別講演では、特別講演として椙山女学園大学をこの3月に退職され,名誉教授になられた冨田明美先生に「アパレルの着やすさと美しさを求めて」と題し,ご講演頂きました.

photo2講演では,冨田先生が40年間にわたり研究をされてきた「アパレル(被服)の着やすさと美しさ」について,その研究の歩みを辿る形でご講演を頂きました.被服構成学の先駆者の一人である土井サチヨ先生から人体計測の基本,マルチン計測器を用いた体型計測法を学んだことが人間工学との出会いであり,1976年4月に日本人間工学会に入会されたそうです.着やすいアパレル製作のために,身体の大きさと形状の正確な測定を試みる中で,Mrs./Mr. Average(全ての身体寸法が平均値である人間)は存在せず,性別や年齢によって各身体寸法は異なることをモリソンの関係偏差折線で示し,人の成長は相似形ではないことを示されました.「年齢によってアパレル寸法を変える」という,今日我々が応用している基本的な知見の礎を作られた功績は特筆すべき点のひとつです.また,スライディングゲージ法で縦断・横断面形状を計測し,人の立体像のモデル(トルソー)を作製して着衣と人体との間に形成される空隙量を測定することで,着やすいアパレルの寸法を追究されました.

その後,さらに精度の高い形態計測が必要であることを痛感し,モアレトポグラフィ法による体型計測を行うようになったことを紹介いただきました.モアレ法ではモアレ縞がうまく撮影できず,被験者の全身にファンデーションを塗らせてもらったり,撮影ではあおり撮影により画像が歪むため定量的に補正をする方法を検討するなど,様々な課題に直面しつつも,創意工夫を重ねることで一つずつ改善を図り,計測技術を確立していかれたそうです.問題に直面するたびに,救世主のように支援してくださる先生方に出会うことができ,研究を進めることができたことを回顧し,人脈の大切さを私たちに教えてくださいました.

講演の後半では,人の動作時の寸法,すなわち動作により変動する空隙量の測定・解析から動作時の着やすさを追究する研究に注力されたことをご紹介いただきました.アパレル設計では変化が大きいところ(例えば腕付け根周辺)にゆとり量を入れれば良いことを科学的に示し,また,温熱的関係(衣服と体の空間・隙間による体感気温)にも注目され,環境要因としての衣服のあり方についても精力的に研究を展開されてきたことを数々の具体的事例を基にご紹介いただきました.photo1

アパレル業界は新素材の開発やデザインなど日進月歩であり,社会情勢・トレンドによってその価値・評価も大きく変わる世界において,被服人間工学の領域で今日の私たちが恩恵を受けている数多くの知見を創出し,社会に役立つ人間工学の実践に寄与されてきた冨田先生のご功績の一部を知ることができた貴重な講演でした.なお,椙山女学園大学では7年前に看護学部が開設されましたが,看護学部で採用されている実習服は冨田先生監修による設計で,防しわ性や吸汗性,動きやすさなどにも十分に配慮を重ねた「着て美しく,快適」な看護実習服として学生からの評判も上々とのことです(椙山女学園大学HPより).

最後に,冨田先生におかれましては,日本人間工学会東海支部の発展に長年にわたり多大なご貢献を果たしてくださりました.私の個人的な話になりますが,冨田先生とは2000年に日本福祉大学で開催された支部総会後の懇親会で,懇親会場の片隅にいた私に冨田先生がお声をかけてくださったのがきっかけで,その後,東海支部での居場所を作っていただいたように思います.支部役員会の後は,帰路方面が同じということで毎回先生のお車で途中まで送ってくださり,機会がある毎に気にかけてくださったことに深く感謝しております.人を育てるには,誰かが気にかけてくれているということ,一言声をかけてあげるということが大きな支えになるという大切なことを,冨田先生をはじめ,東海支部の諸先輩方から教えていただきました.そういう若手人材を育てていこうという風土を育んでこられた点にも,目には見えない冨田先生のご功績であると私は思っております.諸先輩方のそのような取り組みを後進の我々が引き継ぎ,次の世代の育成へとつなげていきたいと思います.

榎原 毅(名古屋市立大学大学院医学研究科)