人間工学測定技法講座 第8回レポート

 

第8回:「体験から学ぶ測定技術の初歩-生体信号、動作、視線、立体形状を対象として」

■開催日時  20161015日(土) 9:3011:00
■開催場所  名古屋市立大学 北千種キャンパス
(JES東海支部2016年研究大会会場内:芸術工学棟 1 階EWS 室,3 階 映像スタジオ)
■参加者   13名

講師プロフィール

yokoyama2 横山 清子
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科教授
工学博士。研究領域は,生体信号処理・情報工学など。
日本人間工学会理事,同東海支部副支部長

 

matsukawa
松河 剛司
愛知工業大学情報科学部 准教授
博士(芸術工学)。名古屋市立大学大学院芸術工学研究科修了。
専門はモーションキャプチャ、3DCG。JES東海支部役員。

 

概要

 体験から学ぶ測定技術の初歩として、1.生体信号(多用途テレメータを用いた筋電図・心電図・呼吸・3軸加速度の同時測定)、2.光学式モーションキャプチャ計測、3.視線計測、4.立体形状計測と造形(3Dスキャナによる三次元計測と3D切削器による造形)について、実機を用いた体験型デモンストレーションを行いました。今回は大学院生、企業、大学教員の方など、各方面から13名の方々にご参加いただきました。参加者を2グループに分け、4つのブースをそれぞれ回りながらの体験ツアー方式で行いました。

1.生体信号(多用途テレメータを用いた筋電図・心電図・呼吸・3軸加速度の同時測定)

生体信号のブースでは、筋電図・心電図・呼吸・加速度など多様な信号を無線で同時計測可能な多用途テレメータの機器の紹介を行いました。筋肉を動かす際に生体から発生する微弱な電気信号を増幅して生体信号として情報を得ますが、今回紹介した機器では電極内に超小型アンプが内蔵されており、電極側でHUMなどの外来ノイズの影響をカットできることを紹介しました。
02

実際に参加者の方にデモンストレーションとして筋電図の電極を装着してもらい、双極誘導による電極の貼り方の説明と筋電位波形がどのように出るのかを確認しつつ、ノイズの原因や除去方法についての解説を行いました。その他、心電図、脳波や呼吸の測定目的や測定法を概説しました。横山研究室のゼミ生の森田智子さんにデモンストレーションのアシスタントをしていただきました。

01

波形に現れるノイズの原因についてや、呼吸測定では呼気量も推定できるのかなど、活発な質疑が行われました。

2.光学式モーションキャプチャ計測

三次元空間における人体の動きをデジタルデータとしてコンピュータに取り込む手法としてモーションキャプチャがあります。人間工学領域では姿勢解析・動作解析などで用いられますが、他領域ではハリウッド映画に代表されるようにCGアニメーション制作でも多用されています。

03

モーションキャプチャには主に光学式、磁気式、機械式があり、現在の主流は光学式(反射式)モーションキャプチャであることを紹介し、最近ではマーカーレスの安価な計測システムも存在することを概説しました。その後、名古屋市立大学芸術工学研究科の映像スタジオ内に設営されている光学式モーションキャプチャを使って実際にデモンストレーションを行いました。

0405

複数台のカメラから赤外光を投射し、身体に取り付けた反射マーカーから反射された光をカメラが取得、3次元の位置情報を三角測量の原理で計測しています。この方法では高速な動きも測定可能(1秒間に300フレーム)であり、精度も高く計測できる一方、広い実験空間が必要となること、遮蔽物や動作中の自分の身体でマーカーが隠れてしまうと反射光を捉えることができない場合もあることを説明しました。また、直接関節の位置座標を取得できるわけではないこと、すなわちスキンモーションエラー(被服や皮膚・筋肉の動きによってマーカー位置が関節に対してずれが生じる)にも注意が必要であることや、欠損部分のデータの補間をおこなう作業(スプライン補間など)などの処理も必要になることを解説しました。

3.視線計測

株式会社ナックイメージテクノロジーのご担当者様にご協力頂き、キャリブレーションフリーの視線計測装置とアイマークレコーダのデモンストレーションを行いました。これまでの計測では被験者毎にその都度個人キャリブレーションが必要であり、そのセッティングに時間を要するという課題がありました。今回紹介頂いたキャリブレーションフリーの視線計測装置は、子どもやハンディキャップのある方、また多人数の被験者を必要とするマーケティング調査などに対応できるという利点があります。

06

参加者の皆様からは測定データについてどのような解析ができるのか、また、論文化する際にはキャリブレーションや精度情報の記載が必要となるため、どのように対処すれば良いかなど、具体的な質問と意見交換が行われました。

07

また、モバイル型の視線計測システムEMR-9の紹介では、実際にどのようにキャリブレーションを行うのかを実演いただきました。注視点を数カ所指定し、そこを見つめてもらうことで簡単にキャリブレーションの設定ができることを説明いただきました。小型・軽量化により人間工学領域においてもヒューマンインタフェースデザインの評価や消費者行動解析、自動車運転のドライバー視覚情報処理の特性、技能伝承研究など、幅広い研究での応用の可能性が期待されます。

4.立体形状(3Dスキャナ)による三次元計測と3D切削器による造形製作

今話題の3Dスキャナによる三次元計測の実例について、横山研究室のゼミ生の河内貴史さんに解説とデモンストレーションをしていただきました。
例えば博物館では主に展示品を目で見て鑑賞します。実物を手で触れてしまうと展示品の損傷を招くため、一般的には触ってみることはできません。視覚障害者の方向けの展示方法として、例えば展示物の古代石器などから3Dスキャナで立体情報を取得し、3D切削器や3Dプリンタで模作することで、視覚障害者にも触ってもらえる展示が可能となります。このような取り組みはユニバーサル・ミュージアム構想と呼ばれており、視覚に依存する従来の博物館ではなく、触覚を応用した新しい展示方法に期待が寄せられています。

08

実際に河内さんより3Dスキャナで製作した古代石器の模作品を紹介いただきました。また絵画も視覚障害者の方に鑑賞してもらうために、各色相およびその濃淡についてパターン化したシボ加工を施したカラーパレットを用意し、そのパターンと色の関係を学習してもらうことで、シボ加工が施された絵画を鑑賞できるような仕組みも考案中とのことでした。

009

実例の紹介後、実際にどのように3Dスキャナで測定するのかを実演していただきました。測定対象の物体を多面的に複数回スキャニングすることで、立体情報を生成していくプロセスを紹介しました。
生成された3Dスキャナの情報から、切削器を使って製作します。3Dプリンタは立体物を加算式で重ねていくことで製作するのに対し、切削器は素材を削りながら対象物を成形する減算式で製作することなど、特徴を紹介してくださいました。切削器では多様な素材を加工できるという利点もあるそうです。

10

以上、4つのブースを90分で回るという体験ツアー方式での開催でした。初学者の方やこれから計測を行ってみたいとお考えの方を対象とした企画のため、個別の測定技法の詳細については時間の都合上扱うことができませんでしたが、実際に実演を見ていただき、経験していただくことで生体計測にチャレンジしてみるきっかけになったのではないかと思います。

今後も通常の測定技法講座に加え、機会があれば今回のような体験ツアー型の企画を取り入れて開催していきたいと思います。

最後に、今回の運営において立体形状測定と造形の説明とデモを担当いただいた河内貴史さん、生体信号測定のアシスタントを担当いただいた森田智子さん、そして、参加者の皆さんのブース移動の誘導などを担当いただいた池田夏生さん、ありがとうございました。