GP-125 産・学・研協同による高齢者・車椅子利用者向けの在宅用運動機器の開発
改善前
改善後
改善事例概要
改善事例概要(改善前)
5年前社員が脳梗塞1級左半身麻痺になり、介護保険の2年半に及ぶリハビリ訓練でも手機能回復はなく限界を感じたのが開発のきっかけです。病院でのリハビリ訓練は時間が限られ、十分な機能回復が見られなかったことから、様々な資料・文献を独学で調べました。そこでふと目にしたのが「脳の可塑性と運動療法」に関する知見でした(総合リハビリテーション30(12), 1389-1395, 2002)。脳卒中により上肢等の片麻痺が生じた場合、その機能障害の回復は従来では困難だと考えられていましたが、動物実験では脳損傷後の可塑性変化が認められるというものでした。また、症例報告としてCI療法(損傷を受けた側の運動を健側運動を制限して誘導しようとする治療法)を長時間(6-7時間/日)行うと治療群に運動機能の改善が認められたという報告があることを知り、光明を見いだしました。
そこで、本人を交えて、健常側で麻痺側の手足の運動を誘発させる「自己他動方式」を考案し、運動機器開発に取り組みました。病院でのリハビリ治療と次の治療までのインターバルの期間に、在宅にて少しでも運動を行えるよう、健側の動作と麻痺側の動作を連動させる仕組みにすることで、理学療法士などの第三者の支援がなくても自分で運動を行うことができます。最初に試作した運動機器が(改善前)の写真になります(本人の写真掲載承諾済)。当初は当社社員のための運動機器として開発を進めましたが、加齢による運動機能低下への対策として、本機器がADL機能維持に役立つのではないかとの着想にいたり、障害者だけでなく、一般の高齢者も視野にも入れた運動機器の開発へと発展しました。
改善事例概要(改善後)
この構想は、静岡県の経営革新認定を受けました。平成23年7月には静岡県ユニバーサルデザイン・工芸研究会に加入し、人間工学の専門家指導を受け、研究会事務局の静岡県工業技術研究所の協力で、様々な評価試験や性能試験を行い、「高齢者の運動機器」が完成しました。脳卒中による麻痺や高齢者という特性を考慮し、安全にかつ低負荷でおこなえる運動機器のデザインと評価、また、運動プログラムの検討などを企業・学会・研究所の産学研協同により検討を進めた事例です。
人間工学的配慮視点
静岡県UD・工芸研究会と日本人間工学会「企業のあり方委員会」の連携事業として企画された「わが社の製品に人間工学を生かそう:6ヶ月実践マラソン」に参加しました。産学研協同により適宜専門家からの助言や運動強度評価の支援などを頂き、企画・設計試作・評価のPDCAサイクルを繰り返しました。同年代でも体力差がきわめて広い高齢者を対象に、健常な方からベッド生活の方まで、自らの心拍数に応じて運動できる「心拍数を大きく上げない運動機器」として研究しました。最大の特徴は、「自己他動の5秒1節のスローストレッチ」の組み合わせ運動です。実験に当たっては倫理審査委員会の審査も経て、筋電心拍測定評価を行い、運動機器と運動プログラムが完成しました。また、車椅子利用者にも健常者と同じ運動ができるようにしてあります。
期待される効果
- 健側の手足で麻痺側の手足を動かすという「自己他動方式」の本機器を、在宅で当社社員が恒常的に使用したところ、徐々に上肢機能が回復してきました。このように一定の効果は期待できると考えておりますが、学術的・科学的な検証は今後リハビリテーションや医学の専門家等の指導も頂き、無作為対照試験(RCT)などの手続きにより立証していく必要があると考えております。
- 一般的に適度な有酸素運動は高齢者の身体機能能力の維持・増進に効果的であることが示されております。また、不活動(Inactivity)は心血管疾患・深部静脈血栓症(DVT)などの健康指標と関連していることが近年の研究で示されています(Hamilton MT et al., Diabetes,2007)。運動習慣を作り毎日続けるのは何かと大変ですが、本運動機器は在宅にて低強度で安全に運動できるため、運動療法による身体能力の維持やADL(日常生活動作)の維持・増進、循環器系疾患予防等にも効果が期待されます。
評価結果データ
参考文献
- 道免和久、田中章太郎「中枢神経の可塑性 第6回 運動療法」総合リハビリテーション30(12), 1389-1395, 2002
- Hamilton et al.,,: Role of low energy expenditure and sitting in obesity, metabolic syndrome, type 2 diabetes, and cardiovascular disease, 56(11),2655-67,2007
- 渡邊知子他「脳卒中片麻痺患者に対する肥料的電気刺激と他動運動併用による治療の有効性」理学療法学34, p360, 2007
推薦者
(一社)日本人間工学会広報委員会
お問い合わせ
- 企業名・担当部署名
(有)京和工業
- 担当者名
代表取締役 安部一祐
kyowaabe@triton.ocn.ne.jp
- その他連絡先
静岡県ユニバーサルデザイン・工芸研究会
TEL:054-278-3024 FAX:054-278-3066- 掲載URL
- 更新日
2013年03月31日