会報・人間工学専門家認定機構 Vol.74

Vol.74 2024年2月13日
会報・人間工学専門家認定機構広報担当

目次

 

報告

人間工学専門家認定機構イベント企画「パラスポーツと義肢装具」

人間工学専門家認定機構イベント企画(共催:日本人間工学会 ワーク・アーゴノミクス研究部会)として、2023年10月30日(月)に芝浦工業大学豊洲キャンパスでセミナーが開催(ハイブリッド開催)されました。「パラスポーツと義肢装具」をテーマに義肢装具を使う側、作る側と立場が異なるお二人からご講演いただきましたが、その講演内容はヒトと義肢装具の関わりについて、実際の現場でのお話が多く、また、お二人のお話しのつながりもピッタリで、非常に興味深いイベントとなりました。

 

【講演報告1】

横井 元治(本田技研工業(株))

○講演テーマ:「立位テニスの世界と人間工学の関わり」
○講演者:岸 俊介 氏((一社)日本障がい者立位テニス協会)

身体障がい者立位テニスの国際大会で優勝経験もある岸さんは、左胸に日の丸が付いた赤いポロシャツで登場し、ご自身の義足の動きを手元のカメラで撮影され実演も組み込んだスポーツマンらしいアクティブな講演でした。

さて、身体障がい者立位テニスと聞いて読者の皆さんはその姿をイメージできるでしょうか?私自身、身体障がい者のテニスは車いすテニスだけであると思っていた。車いすテニスは認知度は高いがすべての身体障がい者に万能という訳ではないため、岸さんはこの立位テニスも将来のパラリンピック正式種目として認定されることを目指し、各国で活動を行われている。

岸さんは19歳の時に交通事故により左足切断となった。事故から切断になるまで半月の間は落ち込んでいたが、切断手術が施され麻酔が覚め実際に自身の今まであったものがなくなったときに吹っ切れ、これから自分がやれることは何なのか?と考えられるようになり、V字回復され、今の立位テニス人生を歩んでいるとのこと。自身の現状を観察、分析し原動力につなげられている、とても感動的な強い言葉と感じた。

義肢とヒトとの関係の中では、自身の足部を反発の高い製品に変えたところ、運動のパフォーマンスが格段に向上したことを感じられた一方、健常足の右足の筋力が追い付いていないことを実感したという経験談が印象的であった。

義足は大事であり、かつ義足は進化しているが、実際に使用をするのは人間であり、その使用者個人が不安なく、違和感もないということがパフォーマンスの向上につながるという理論のもと、ご自身で義足のボルトの細かいセッティングを行われているとのこと。今後は、これらヒトと義足に関する経験知、暗黙知を形式知化できないか?という展望についても述べられ、ご自身の豊富な体験、経験と人間工学と融合させる、まさに実践工学を体現されようとしていることが感じられる講演内容であった。


 

【講演報告2】

浅田 晴之((株)オカムラ)

○講演テーマ:「障がい者の活動を支える技術」
○講演者:佐藤 健斗 先生(北海道科学大学)

義肢装具士でもある佐藤先生より講演が行われた。義肢装具士は、医療系の国家資格であり、他の理学療法士などと比べると人数が少ないため認知度が低いが「モノを通して人を支える専門家」である。義肢とは元の手や足の機能や形の復元、装具とは身体にかかる力のコントロール、痛みを取る、動きを助ける、余計な動きを止める、矯正力をかけること。

義肢装具は、車いすから歩行に移行できるようにし、側弯症の患者が座位姿勢をとれるようにするなど、生活の質を向上させることができる。義肢装具士は、義肢装具を製作し、提供し、フォローアップすることが主な業務であり、義足歩行の動作解析や関節のアライメント調整の数値化など、業務範囲が広がっているそうだ。

日常的に使用する義足には金銭的な補助が受けられるが、レリエーション用の義足には補助がなく、市民レベルの普及には壁が存在する。

パラアスリートは、義肢装具を使用することで、健常者に負けない実力を発揮している。義肢装具のレベルが向上することで、一般人が使用する義肢装具にも適応されるようになり、障がい者支援につながることが期待されているとのこと。

質疑応答では、自分の足ではない義足をコントロールすることがパラアスリートの技術である、義肢装具士のノウハウがウェアラブルロボット分野に適応されることでより良い製品が作られる可能性があるなど、活発な議論が行われた。

専門家の新規登録

(50 音順、敬称略)

  • 認定人間工学準専門家
    (2024年2月1日認定)落合志文、高崎咲耶子、山田泰之

認定状況

2024年2月9日現在(2023年4月1日からの人数増減)

  • 人間工学専門家     215名( + 3名)
  • 人間工学準専門家    187名( +9名)
  • 人間工学アシスタント 17名( ± 0名)
  • シニア人間工学専門家   16名(  +3名)

編集後記

このたびの令和6年能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。コロナ禍から様々な活動が回復に向かい始めた中、新年の突然の災害によって、多くの方が不安な状況、困難な状況に置かれていることと思います。人間工学に関わる私どもも、皆様の回復と復興を支えるため微力ながら活動を続けて参りたいと思います。被害を受けられた皆様の安全と1日でも早く平穏な生活に戻られますことを心よりお祈り申し上げます。(広報担当 松岡)

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