会報・人間工学専門家認定機構 Vol.70

Vol.70 2022年12月23日
会報・人間工学専門家認定機構広報担当

目次

報告

CPEセミナー 第1回 ABWの考え方と人間工学関連領域のISOについて

岡田 英嗣

  • 開催概要
    【開催日】 2022年11月10日(木)17:30~19:00
    【開催形式】オンライン
    【講演内容】
  1. 改めてActivity-based working とは何なのか?
    – Juriaan Meel『The Activity-Based Working Practice Guide』を中心に-
    山本 雅康 氏(ふしみや)
  2. ISO/TC 314 Ageing Societiesにおける就労環境及びウェルビーイングの標準化について
    佐藤 洋 氏(産業技術総合研究所)

 人間工学専門家認定機構では、新しい試みとしてActivity-Based Working(以下、ABW)に適した人間工学の国際標準規格を起案する活動『ABW委員会』を2021年から運営しています。

 ABW委員会の取り組みと成果について機構の皆様にご紹介・報告するため、CPEセミナーを企画しました。今回は、第1回目として、ABW委員会の取り組みと成果について、またABWに加えて人間工学関連領域のISOについて、2名の専門家にご講演いただきました。


講演1.改めてActivity-based working とは何なのか?
– Juriaan Meel『The Activity-Based Working Practice Guide』を中心に-
山本 雅康 氏 (ふしみや)

 コロナ禍を経て、ABWへの注目度が増しています。ABWに関する啓蒙的な解説書である『The Activity-Based Working Practice Guide(Second edition)』の内容を中心に、ABWの考え方について紹介されました。

 本書では、ABWとは「様々な種類の活動を支援するために設計された多様な職場環境を従業員が共有して利用する働き方です。」と定義され、「多様性」「シェアリング」「働き方の工夫」の3項目を含む必須条件があります。ただ単に「フリーアドレスにする」などではなく様々な要素を持ち合わせて、前提条件などに縛られず柔軟な対応ができることが求められ、達成目標も明確にした上で取り組むことが必要になります。

 ABWの経験者は元の環境に戻りたくないという効果が得られる一方で、ABWの評価(生産性など)ができないことが現状での課題です。今後、評価方法が確立されれば、さらにABWが広がっていく可能性を感じました。

『The Activity-Based Working Practice Guide(Second edition)』:
https://www.fsre.is/media/fsr-eldri/ABW-practice-guide-2nd-edition.pdf


講演2.ISO/TC 314 Ageing Societiesにおける就労環境及びウェルビーイングの標準化について
佐藤 洋 氏 (産業技術総合研究所)

 産業技術総合研究所では、標準化に力を入れて取り組んでいます。その中で、就労環境とウェルビーイングに関する2つのTC314規格についてお話をいただきました。

 ISO 25550:2022 Ageing societies — General requirements and guidelines for an age-inclusive workforce は、高齢者の特徴を考慮するなど、組織がすべき就労環境に対する配慮の概要項目を列挙し、推奨事項・要求事項として整理されています。高齢社会では高齢者就労への配慮も重要なことの1つになってきます。

 ISO/WD 25554 Ageing Societies – Guidelines for Promoting Wellbeing in Local Communities and Organizations は、コミュニティや企業におけるウェルビーイング促進のためのガイドラインです。高齢社会のウェルビーイングの向上のためには、個人のみならず組織やコミュニティ全体を考えることが必要で、この規格はその枠組を整備するものです。英国などでは国としてウェルビーイング評価を行っています。またウェルビーイングは多様な方策を持ち、ABWの考え方とも類似しています。ABWもQoW→QoLと繋がっており、多様な社会への対応がウェルビーイングの向上に貢献できることを改めて感じました。

報告

報告:CPEセミナー 第2回 ABW委員会の活動報告と今後の展望

笹川 佳蓮(株式会社イトーキ)

  • 開催概要
    【開催日】 2022年11月22日(火)17:30~19:00
    【開催形式】オンライン
    【講演内容】
  1. ABWに関する研究のご紹介 福住 伸一 氏(理化学研究所)
  2. 実態調査から考察するABW 笠松 慶子 氏(東京都立大学)
  3. ABWに関する人間工学ISO制定の取り組み 兵頭 啓一郎 氏(ユアサシステム)

 人間工学専門家認定機構では、ABW委員会の取り組みと成果について機構の皆様にご紹介・報告するため、CPEセミナーを企画しました。今回は、第2回目として、ABWの実践的な取組,実態調査,また人間工学ISOについて、3名の専門家にご講演いただきました。


講演1.ABWに関する研究のご紹介
福住 伸一 氏 (理化学研究所)

 講演では主に、1)テレワーク等働き方に関する調査、2)働き方改革導入効果に関する調査、3)導入効果指標化、4)働き方の用語について説明がありました。

 コロナ感染症の影響でテレワーク導入が進み、これまでのVDTガイドラインでは想定されていないような問題が頻出しています。そこで、テレワーク等働き方に関する調査を実施しました。

その結果、「資料作成」「調査・情報収集」「アイデア出し」は、オフィス内外の様々な場所で実施していることが分かりました。中でも「調査・情報収集」「アイデア出し」は、乗り物の中や公共の場所での活動も目立っていました。また、テレワークはあまり浸透していないということも分かり、今後理由を十分に検証する必要があります。

次に、ABW導入効果の指標化に向けた調査を実施しました。その結果、総労働時間や休憩時間、休暇取得率、成果の質や量などの指標が抽出されました。一方で、評価結果はその地位や役割によって変わるため、経営的視点、社員のワークライフバランスや業務のしやすさなども評価する必要があります。

ABWの導入効果指標の検討、評価方法の体系的な整理も行われており、主観、行動、生理などが検討されています。さらには、働き方に関する用語もあまり統一されておらず、国際提案に向けて意見の取りまとめが必要です。


講演2.実態調査から考察するABW
笠松 慶子 氏(東京都立大学)

 様々な働き方に対応したシステムや制度を整備するために、テレワークやABWの実施成果を測定する指標が企業、ワーカーの両者にとって必要です。そこで、業務を遂行している場所や頻度に関する実態調査を行ないました。

その結果、a)対面、オンラインともに社内会議・打合せ、面接等が最も多く、専有席や会議室の利用が多い、b)対面では雑談・交流、休憩が多い、c)オンラインでは資料作成、調査・情報収集等の一人で行える業務が多いことが分かりました。
すなわち、裁量のある業務では個人のやりやすい方法で業務を進めていることが明らかとなりました。年齢層別の考察では、20-40歳代は様々な場所を選択して業務を行うが、50-60歳代は固定化された書斎で業務を行うといった差異がみられました。役職別の考察では、管理職は出社が多く、一般職、経営層は業務によって場所を選んでいるようでした。

これらの結果から、役職や役割の視点、ワークライフバランスの視点を考慮したABWが必要であり、そのための意識を浸透させることが重要であると考えられます。


講演3.ABWに関する人間工学ISO制定の取り組み
-ISO TC 159/SC4/WGに於いて-
兵頭 啓一郎 氏 (ユアサシステム)

 講演では主に、1)標準、2)人間工学の標準化、3)働く場所の変遷とABWに関わる人間工学の標準化について、紹介がありました。

標準とは、ISOや法律で定められたデジュール標準、誰かが定めたわけではないが事実上の標準といったデファクト標準、ある種の団体や特定の会社が定めたフォーラム標準があります。人間工学の標準化例、ISO TC 159/SC4/WG3にみるように、最近の標準化は、モノづくりからコトづくりへのシフトによりサービスの評価、標準化が進められています。

人間工学の標準化例では、モノの標準化例として車のウィンカー、サービスの標準化例として、小口保冷配送サービスなどがあります。
ABWの標準化では、近年、各々が働く場所を選ぶ働き方に変わっているため、多様な働く環境を、働く人に悪影響を与えないような働く場所の人間工学、VDT作業者の人間工学指針を検討する必要があり、現在ISOの中でテクニカルレポートの内容を検討しています。働く場所は与えられるものという考えから、ABWでは働く人が自ら働く場所、環境を選ぶという考えに移っているようです。

認定状況

2022年12月23日現在(2022年4月1日からの人数増減)

  • 人間工学専門家     211名( ± 0名)
  • 人間工学準専門家    170名( +1名)
  • 人間工学アシスタント 16名( ± 0名)
  • シニア人間工学専門家   12名(  ± 0名)

編集後記

 2022年も終わりを迎えようとしています。COVID-19への対応はまだまだ続き、大変な日々が続いておりますが、一方で「3年ぶり」という言葉を聞くことも多くありました。JESの大会、支部研究大会も「3年ぶり」に対面開催されました。少しずつですが、新しい環境、新しい暮らし方が作り出され、前向きな変化を感じられる一年であったと思います。CPEでも多くのイベントを実施することができ、機構会報も3号を発行することができました。私個人としましては、6年ぶりの異動となり、戸惑いつつも前向きな変化と捉え楽しみました。CPE幹事としては、まだまだ前任のように気の利いた記事、編集後記には至りませんが、来年も楽しみながら取り組みたいと思います。CPEの皆さまも良い新年をお迎えください。(広報担当 松岡)

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