会報・人間工学専門家認定機構 Vol.68

Vol.68 2022年8月22日
会報・人間工学専門家認定機構広報担当

目次

報告

日本人間工学会第63回大会でのシンポジウム

松岡 敏生(三重県産業支援センター)

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 今年の大会は、2年ぶりの対面開催となり7月30~31日に村田厚生先生を大会長として、広島県尾道市のしまなみ交流館、尾道市役所で開催されました。

 初日の午後には、「CPEJ企画シンポジウム  ーR3年度 ABW 委員会の活動報告—」が開催されました。

  • CPEJ企画シンポジウム ーR3年度 ABW 委員会の活動報告— (オーガナイザー:八木 佳子)
    山本 雅康:Juriaan Meel の『The Activity-Based Working Practice Guide』における ABW の考え方
    福住 伸一:ABW の導入効果指標化
    笠松 慶子:業務遂行に関する実態調査から考察する Activity Based Working
    兵頭 啓一郎:アクティビティベースワーキング(ABW)に関する人間工学的国際標準制定の取り組みの紹介- ISO TC 159/SC4/WG3 に於いて –

また、CPEに関連したシンポジウムとして、同じく初日の午後に「新しい人間工学コア・コンピテンシーの紹介と実践」も開催されました。

  • 新しい人間工学コア・コンピテンシーの紹介と実践 (オーガナイザー:鳥居塚 崇)
    鳥居塚 崇:新しい人間工学コア・コンピテンシーの紹介と実践
    榎原 毅:新しい IEA の人間工学コア・コンピテンシーの概要
    八木 佳子、井出 有紀子:IEA 版新コア・コンピテンシーに照らした現在の人間工学専門家認定基準と今後の専門家像について

なお、これらの発表論文は後日、J-STAGEで公開される予定ですので、ぜひ、ご参照ください。

 会期直前には新型コロナの第7波が訪れ、発表や参加のキャンセルも見られましたが、2年ぶりの対面開催ということもあり、すべての会場で非常に活発な討議が行われていました。このような難しい社会環境下での大会開催にあたっては、村田先生はじめ、実行委員の皆様には大変なご苦労があったかと拝察いたしますが、本大会に参加して多くの学びと出会い、再会があり、改めて本学会の素晴らしさを再確認できました。また、尾道という素晴らしい土地で開催していただき、映画ファンとしては大会以外の部分でも十分に楽しむことができました。本当にありがとうございました。

報告

報告:日本人間工学会ワーク・アーゴノミクス研究部会セミナー
第3回働く環境「空気」~快適な温熱環境と安全な空気を~

青木 和夫(日本大学)

1.はじめに

 これまで、快適で効率的な仕事環境を自ら整えたり、人間工学専門家として、一般の方へ適切な作業環境についてアドバイスできたりする知識と技法を学ぶ場としてワーク・アーゴノミクス研究部会と人間工学専門家認定機構の共催で「働く環境」についての連続セミナーを開催してきました。今回は第3回目のテーマとして、「空気」を取り上げました。新型コロナウィルス対策として室内の換気が必要とされ、また、夏季の熱中症対策としての冷房などが重要であることから、温熱環境と有害物質に関する知識と対策の最近の動向を紹介いただき、快適な作業空間を作ってゆくための方法と考え方について2名の方に講演していただきました。
参加者は、認定人間工学専門家を中心に日本人間工学会会員や一般の方など51名でした。

2.開催概要


【開催日】2022年6月28日(火)17:30~19:00
【開催形式】オンライン
【主催】日本人間工学会 ワーク・アーゴノミクス研究部会
【共催】人間工学専門家認定機構
【講演内容】
1.生活空間と熱環境 三上 功生(日本大学)
2.室内における化学物質管理 城内 博(労働安全衛生研究所)
3.質疑応答
【司会】青木 和夫(研究部会長・日本大学)

3.講演内容

3-1.生活空間と熱環境
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 三上功生氏(日本大学)より、まず人間の体温調節のメカニズムについて説明がありました。三上氏は頚損者の体温調節機能を研究しており、頚髄損傷によって、発汗障害、血管運動障害、熱産生障害、温冷感麻痺によって体温調節ができなくなることが問題だとしました。また温熱環境の6要素として、環境側と人体側の要素の組み合わせで快適性が決まること(図1)を説明しました。快適な温熱環境については、建築物の温熱環境として、通称「ビル衛生管理法」では、空気温度18~28℃、湿度40~70%、気流0.5m/s以下が基準値として示されています。

 さらに近年の温暖化現象で夏の暑さ対策が課題となっていますが、熱中症対策として「日常生活における熱中症予防指針」1) が日本生気象学会から出されていることの紹介がありました。この指針はWBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)を基準としたもので、温度計の乾球温度と湿球温度、黒球温度計の値から求められます。WBGTが31℃以上は危険、28℃以上31℃未満は厳重警戒、25℃以上~28℃未満は警戒となっており、25℃未満は注意となっています。WBGT測定器は高価な装置であるために個人では購入するのが困難です。黒球のついた電子式のものは比較的正確に測定できますが、黒球のない簡易式のものは安価ですが室内でのみの測定しかできません。また、黒球温度計のない場合には、気温と相対湿度からWBGTを推定する簡易推定図が日本生気象学会の上記の指針に示されているので、これを利用するのもよいとのことです。なお、三上氏は家の中に11台の簡易WBGT測定器を配置して、各部屋のWBGTが22℃付近になるようにコントロールしているとのことでした。

3-2.室内における化学物質管理

 城内博氏(労働安全衛生研究所)より、事務職場を中心とした化学物質管理について講演がありました。事務職場の空気環境は事務所衛生基準規則によって規定されていますが、休業4日以上の死傷病は稀にしかなく、年間1万件程度ある一般消費者製品による危害情報の中に含まれている可能性もあるそうです。

 まず空気の組成について説明があり、酸素濃度と症状の関係、呼気中の二酸化炭素濃度などが示されました。事務室における空気環境の基準は、表2に示されています。換気の良しあしを見るためには二酸化炭素濃度が参考になりますが、この基準では0.5%以下となっています。空調設備のある場合は表3に示されるような基準が設けられており、二酸化炭素濃度は0.1%(1,000ppm)以下となっています。

 そのほか、一酸化炭素、ホルムアルデヒド、オゾン等の化学物質の生体影響について説明があり、建築物の気密化と換気量の低下によって働く人の不定愁訴が増え、これがシックビル症候群と呼ばれました。
最後に、城内先生のライフワークである化学物質管理について、従来の「法令準拠型」から「自律的な管理」に2023年から変わり、危険性・有害性を有する物質を含む製品を使用する職場では、リスクアセスメントを実施する必要が生じるとの紹介がありました2)

3-3.質疑応答

 講演の後、質疑応答が行われました。今回は事前登録時に質問も提出することができるようにしたため、多くの質問が寄せられました。その中から司会者がいくつかの質問を選んで講演者に回答してもらいました。

 質問の多かったのは換気についてで、「十分に換気できているかどうかをどうやって知るか」や「自宅でできる空気環境測定器はあるか」などについては、二酸化炭素濃度測定器が紹介されましたが、ネット通販などで購入する安価なものはあまり精度がよくないとの回答でした。また、人が多くいるところでは、気温の上昇も換気の必要性の目安となるとの答えでした。換気量については、24時間換気装置のついている屋内では、0.5回/時間の換気量があるとのことでした。そのほか、室温を変化させないで換気する方法として、全熱交換器が紹介されました。これは、吸気と排気の熱を熱交換器で交換することによって、エネルギー効率よく換気する方法として推奨されました。

 また、臭いについてはその発生源を突き止めて対策を行う必要があり、有害物の場合はむしろ臭いによって危険性を察知することができるとの答えでした。

4.おわりに

 COVID-19によりテレワークやオンライン授業が増加し、快適で効率的な仕事環境を自ら整える方法についてアドバイスする必要があると考え、3回にわたって「働く環境」をテーマとしてきました。次回はやはりテレワークなどにより変化した「コミュニケーション」をテーマに開催する予定です。

参考サイト

1) https://seikishou.jp/cms/wp-content/uploads/20220523-v4.pdf
2) https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/info_center.html

専門家の新規登録

(50 音順、敬称略)

  • 認定人間工学準専門家
    (2022年4月1日認定)有馬 悠弥、北野 将利、澤 知佳子、筒井 里枝
    (2022年8月1日認定)井村 紗枝子、鏡味 沙里、木下 シエナ、鈴木 裕人、立原 誠也、野田 彩花、馬 燁唯、山根 知明
  • 認定人間工学アシスタント
    (2022年8月1日認定)榊原 学

 

認定状況

2022年8月22日現在(2022年4月1日からの人数増減)

  • 人間工学専門家     208名( -3名)
  • 人間工学準専門家    174名( +5名)
  • 人間工学アシスタント 16名( ± 0名)
  • シニア人間工学専門家   12名(  ± 0名)

編集後記

第10期よりCPE幹事を仰せつかり、広報を担当いたします三重県産業支援センターの松岡敏生と申します。会報を通じて、講演会やセミナー、皆様の実践事例等を報告するとともに、CPEをはじめとする人間工学に携わる方のつながりを広げていきたいと思います。皆様の寄稿、企画もお待ちしております!どうぞよろしくお願いいたします。

過去のコラム一覧