会報・人間工学専門家認定機構 Vol.63
Vol.63 2020年5月1日
会報・人間工学専門家認定機構編集委員会
- 目次
- 専門家からの報告
人間信頼性解析手法を用いた事故解析手法 - 専門家からの報告
参加型デザインの実践的研究 - 専門家からの報告
地域のモノづくりを支援する公設試 - 専門家からの報告
専門家として果たすべきこと - 専門家からの報告
エラーの連鎖はなぜ起こる?の研究 - 専門家からの報告
名刺のちから - 報告
CPEJの施策/活動に関する調査結果 - 報告
2020年度 総会・講演会 - 専門家の新規登録(50 音順、敬称略)
- 認定状況
専門家からの報告
人間信頼性解析手法を用いた事故解析手法
三友信夫(日本大学 生産工学部)
原子力施設の安全評価として、確率論的安全評価手法(Probabilistic Safety Assessment, PSA)があります。この手法は、起こりうるすべての事象を確率的に評価することにより、大規模システム等の安全性を評価する手法です。このPSAでは、機械、システムの故障を評価するだけでなく、人間の行為の成功失敗(ヒューマンエラー)について評価する人間信頼性解析(Human Reliability Analysis, HRA)も行われます。ヒューマンエラーの可能性、発生確率とその影響を定性的、定量的に評価するための作業がHRAです。
HRAは主に原子力発電所のPSAとともに発展し、これまでにさまざまな手法が開発されています。この開発された手法の分類として、「第1世代」、「第2世代」とする考え方があり、1990年代を境に分類されます。「第1世代」と呼ばれる手法は、機械装置に対する信頼性解析の手法を人間行動に応用したもののため、行動決定の認知メカニズム等を考慮せず、人をブラックボックスとしてとらえたものです。この枠組みでは、エラーを正確に扱うことができないことから、第1世代の欠点を克服するべく、人間行動の認知メカニズムを考慮した第2世代の手法が開発されました。第2世代HRAは第1世代HRAに比べ優れた点があるものの、実施手順が複雑であり、また データベースが十分に整備されていないことなどの理由から、第1世代の手法に比べ実用レベルにはいたっていないと考えられています。第1世代HRAの代表的のものとして、THERP(Technique for Human Error Rate Prediction)があります。THERPは米国のサンデイア研究所により開発されたHRA手法で、原子力発電所に対して初めて行われた本格的PSAに採用された手法です。THERPでは、作業者の行う一連の作業を失敗・成功の2分岐のツリー構造に展開する人間信頼性解析イベントツリーを用いて解析を行います。またTHERPのハンドブックでは、この分岐確率についても参考データが掲載されています。現在、このTHERP手法を用いた事故の解析手法に関する研究等を行っています。
近年 ヒューマンエラーを要因とする事故は原子力、化学、航空、船舶等の様々な分野で数多く発生しています。しかしながら、このようにヒューマンエラーを要因とする事故が数多く発生しているにもかかわらず、ヒューマンエラーに着目した事故解析に関する手法は確立されていません。そこでヒューマンエラーを要因とする事故解析手法の確立を目的とし、前述のTHERPを用いた研究を行っています。例として、タイタニック号事故の解析について検討した結果について紹介します。タイタニック号事故について、既往の研究などから事故のシナリオを以下のように設定します。
出航の遅れ
→警告信号の無視
→氷山への接近に気付かなかった
→避航動作の遅れ
→氷山との衝突
このシナリオを先ほど紹介した人間信頼性解析イベントツリーを用いて表したものが次図です。
人間信頼性解析イベントツリーによる
タイタニック事故の例
図中、
・各分岐は右側が行為の失敗、左側が成功
・大文字記号は行為の失敗確率、小文字記号は行為の成功確率
・人的要因以外の分岐はギリシャ文字で表示
・FとSはそれぞれのシーケンスの失敗、成功を表す
となっています。このツリーでは、タイタニック号が氷山との衝突が発生する確率は、図中のF1~F4の和として与えられます。
このような、ヒューマンエラーを要因とした事故解析手法に関する研究に、今後も取り組んで行く予定です。
【参考】
ヒューマンエラーを要因とする事故の解析手法に関する研究,日本機械学会2016年度年次大会講演論文集,G1700304
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemecj/2016/0/2016_G1700304/_article/-char/ja/
タイタニック号事故の確率論的安全性評価手法による解析,電子情報通信学会技術研究報告,2002
https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj1965/56/2/56_174/_pdf/-char/ja
A study on application to marine accident of human reliability analysis method, 2015 International Conference on Informatics, Electronics & Vision (ICIEV)
https://ieeexplore.ieee.org/document/7334048
執筆者自己紹介
三友信夫:日本大学 生産工学部 マネジメント工学科博士(工学)。
東京工業大学大学院博士後期課程修了。
2013年日本大学生産工学部着任。
2018年認定人間工学専門家資格取得。
ヒューマンファクター、リスク評価に関する研究に従事。大学の講義では、信頼性工学、安全工学等を担当。
専門家からの報告
参加型デザインの実践的研究
吉田悠(株式会社KDDI総合研究所)
私はこれまで企業の研究所で、主にIT製品やサービスを対象に、ヒューマンインタフェースやヒューマンファクター、ユーザビリティ等のユーザを対象とした「人間系」と呼ばれる分野の研究を行ってきました。そして近年では新たな取り組みとして、参加型デザインの実践研究を進めています。今回はその内容をご紹介したいと思います。
参加型デザインはサービスデザインのアプローチの一つですが、そのプロセスや手法の枠組みは従来のユーザ実験に基づく製品・サービスの設計開発と異なります。例えば、ユーザは評価だけでなくサービスの企画や設計の段階からプロジェクトに積極的かつ継続的に参加します。また、実証実験はいわゆる実験室実験ではなく、実環境で実ユーザを対象に統制せずに実施します。プロジェクト関係者も多様です。サービス提供者に加えて、生活者や地域住民、関連コミュニティ、自治体、大学など様々な人や組織が目的に応じてプロジェクトに参加します。
私たちの研究グループは、数年前から横浜市の東急たまプラーザ駅周辺を実証フィールドに、参加型デザインのプロジェクト「ママたちのココちいいをカタチにしてみたらプロジェクト」を進めてきました。子育て中の母親が忙しい合間に自律的に過ごせる心地良い空間(サードプレイス)を実現することをコンセプトとしたプロジェクトです。このプロジェクトでは、サービス企画段階で15名の母親らとワークショップを実施し、さらに複数回に渡るコアメンバーとの集中討議を行い、最終的なサービスアイデアとして「シェア冷蔵庫」の構想を得ました。シェア冷蔵庫とは、コミュニティ内で冷蔵庫を共有し食品を交換するアイデアです。参加者が多めに作った食品や余った食材を冷蔵庫に入れて他の参加者に提供し、代わりに他の参加者から提供された食品を持ち帰ることで参加者間での食品交換を実現します。
昨年度2019年9月に、たまプラーザ駅近くのカフェの横スペースを借りてシェア冷蔵庫のプロトタイプ実験を行いました。実験参加者は地域の母親らを中心に26名集まりました。実験してみて初めて分かったことがいくつかありました。例えば、当初は冷蔵庫に食品が無くなることを懸念していましたが、実際には多くの参加者が食品を持ち帰ることに遠慮を感じてしまい、実験2日目には冷蔵庫が在庫でいっぱいになってしまいました(図)。また、LINEのオープンチャット機能で参加者に冷蔵庫の在庫状況を定期的に発信したのですが、これが参加者同士の食品に関するコミュニケーションを促進しサービスの活性化につながるという予想以上の効果がありました。
これまで実験室実験に慣れ親しんでいた自分にとって環境や条件を統制しない実験は不安でした。しかし統制しないからこそ得られる結果があることを実感でき、新たな世界が広がった感覚でした。ユーザは周囲の環境や設定された条件に応じて自身の思考や行動、戦略を変えます。そのためユーザを対象とした研究では、用いるアプローチや手法によって得られる結果が変わります。専門家として、様々な手法の知識や実践スキルを身につけるとともに、目的に応じて適切なアプローチや手法を使い分けられるよう意識しながら今後の研究活動を進めていきたいと考えます。
実証実験2日目の冷蔵庫の中の様子
【参考】
吉田悠, 大戸朋子, 東條直也, 木村恵美理, 南部隆一, 新井田統. "リビングラボにおけるローカルイノベーション ~たまプラーザでの子育てママとの共創活動~.” サービス学会第8回国内大会予稿集, A-3-03, (2020).
ACTANT. "ママたちのココちいいをカタチにしてみたらプロジェクト"
https://actant.jp/mamacoco/
Facebook "ママたちのココちいいをカタチにしてみたらプロジェクト"
https://www.facebook.com/mamacocolivinglab/
執筆者自己紹介
吉田悠:株式会社KDDI総合研究所ユーザ・イノベーショングループ研究主査。日本電気株式会社中央研究所、同社ビジネスデザイン本部を経て、KDDI総合研究所に入社、現在に至る。
ヒューマンインタフェース、ヒューマンファクター、認知システム工学、UI/UXデザイン、サービスデザイン等の研究に従事。博士(工学)。認定人間工学専門家、HCD-Net認定人間中心設計専門家。
専門家からの報告
地域のモノづくりを支援する公設試
松岡敏生(三重県工業研究所)
全国には公設試験研究機関(公設試)と呼ばれる地方自治体が設置する公的な試験研究機関があります。業務分野は工業系の他、農林水産系などの試験場もありますが、工業系の公設試は、地場産業をはじめとした各地域の産業支援、産業振興が主な業務で、研究開発、技術支援、依頼試験などを行っています。
公設試はそれぞれの自治体により独立に運営されていますが、一方で、全国や近隣地域のネットワークが構築されています。例えば、医療福祉分野では、産業技術連携推進会議(産技連)のライフサイエンス部会・医療福祉技術分科会により、医療・健康・福祉技術に関する情報交換、技術交流を行っています。その中でも、人間生活工学研究会では、人的なネットワークに加え、東京都立産業技術研究センターが中心となり、全国の公設試の人間生活工学機器DB(DHuLE)を提供しています。他に、公設試が中心となり日本人間工学会でのシンポジウム等を企画して、情報交換、技術交流を行っています。
日本のモノづくりは、地域の中小企業が支えているといわれていますが、その高度なモノづくり技術を有する中小企業を支援することが公設試の役割です。公設試は、大学や国研に比べて馴染みがないですが、病院に例えると、大学、国研は高度な総合病院で、公設試は地域のかかりつけのクリニック(町の開業医)とよくいわれます。我々公設試は、地域の企業の身近なクリニックとして相談を受け、総合病院や専門分野の技術ネットワークを活用して、さまざまな課題の解決の糸口をつかんで頂けるよう取り組んでいます。ぜひ、公設試をご利用ください。
【参考】
公設試験研究機関人間生活工学機器データベース DHuLE
https://www.dhule.jp/
日本人間工学会インタビュー
https://www.ergonomics.jp/topics_j100/interview_002.html
執筆者自己紹介
松岡敏生:三重県工業研究所プロジェクト研究課所属。博士(工学)。1992年三重県工業技術センター入庁。主に、繊維製品、医療福祉製品の開発に従事。プロジェクト研究課では、産学官連携による製品開発、プロジェクトの企画等に従事。専門は、繊維工学、感性製品評価。
専門家からの報告
専門家として果たすべきこと
境薫(富士通デザイン株式会社)
私の所属する富士通デザインは主に富士通グループで開発する製品・システム・サービスのデザインを手掛けています。学生時代に人間工学を学び、入社以来、デザイン部門の中で人間工学をバックグラウンドとして製品・サービス開発に関わってきました。
少々古い話となりますが、入社して間もないころ、のちに株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモより発売された、らくらくホンⅡの音声ブラウザ読み上げ機能のUI開発に携わりました。当時、世間では携帯電話(今でいうガラケー)が急速に普及し、移動先でウェブ利用ができるようになっていました。しかし、携帯電話機能の一部にしか音声読み上げ機能が実装されておらず、視覚障害のある人はウェブ利用が事実上出来ない状況でした。そこで、携帯電話のウェブブラウザに音声読み上げ機能を実装しようとなったのです。携帯電話における音声ブラウザ機能は先例がなかったため、PC等の音声読み上げUIや携帯電話用ウェブサイトの構造をリサーチしUIを設計、プロトタイプを使って視覚障害のある方に協力頂いてユーザーテストを実施し、要求項目を確認・修正、製品への機能搭載を行いました。また、音声ブラウザを使って適切に情報を取得するには、音声ブラウザUI側とコンテンツ(ウェブサイト)制作側の両方の適正化が必要と考え、音声ブラウザUIの読み上げ仕様を公開し、コンテンツ制作側に向けhtmlの組み方のガイドラインを用意し、配慮を求めました。製品化に向けて、リサーチ・設計・テスト・改善と一通りの開発工程を経験できたこと、ユーザーが継続してウェブ利用可能とするために、製品側とコンテンツ制作側を包含した視点で施策を実現できたことは、実務家として歩みだしたばかりの私には貴重な経験となりました。何より、ユーザーテストによって想定しきれなかった課題が発見されたり、製品購入後もユーザーが継続して使える状況を構築することの重要性を認識したりと、使いやすさの保証とはどういうことか、開発現場における専門家として担う役割と責任を認識しました。
その後長らく、スマートフォン、PC、業務用システムや端末の人間工学的研究やユーザビリティ評価を担当してきました。思い起こすと至らぬことも多々ありましたが、人間工学実験や評価を通して、専門家としてどう判断するか、果たすべき役割を意識してきました。幸いにして社内には頼りになる人間工学専門家が数人在籍しており、時に相談したり助言を受けながら専門家へのキャリアを積むことができました。
近年はデザイン部門が関わる事業領域は拡大し、社会的課題解決にむけたソーシャルデザインや、人間を中心に見据えたデータ分析の経験を活かしてDX分野に関わる機会がでてきました。新規領域においても、人間工学専門家として、エンドユーザーが使いやすい製品やサービスを社会に届けることに変わりはないと思っています。社会全体が生活しやすい環境の実現にむけて、これからも人間工学の専門家として、学び、活動していきたいと考えています。
執筆者自己紹介
境薫:早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了、富士通株式会社入社後、デザイン部門にて人間工学領域から製品・サービスの設計・開発に携わる。最近はソーシャルデザイン、DX分野に活動の幅を広げようと模索中。
専門家からの報告
エラーの連鎖はなぜ起こる?の研究
和田一成(西日本旅客鉄道株式会社)
人はエラーを続けてしまうことがあります。料理と箸を運んでいて、箸を落としてしまったのであわてて拾おうとしたら料理をこぼしてしまったとか、仕事の帰りにスーパーで買い物をするつもりだったのに、仕事でミスをしてショックで帰りの買い物を忘れてしまったとか(それで家族に怒られてしまったとか)。普段ならば笑い話ですみますが、労働の場面では大きな事故につながることがあります。鉄道の事故の中にも、エラーが重なって起きた重大事故があります。本研究は、そういったエラーの連鎖がなぜ起こるのかを心理学的に検討していこうというものです。もちろん、最終的にはエラーの連鎖による事故を防止するのに役立つ知見を出すことが目標なのですが、まだ道半ばです。
本研究では、エラーの連鎖を単なるエラーの連続ではなく、情動などの感情が媒介してエラーが引き起こされていく状態と考えています1)(下図)。とても単純ですが、「作業中にエラーをしたら、あわてたりショックをひきずったりしてさらにエラーをしてしまう」という作業現場の典型例には合っていると考えています。
エラーの連鎖の起こり方
この考え方に沿った事象は実際にはどのくらい起こっているのか調べたところ1)、当社の運転士によるヒューマンエラー事象287件(約4年分)のうち81件が該当事例でした。内容を見ると、自分のエラーから始まる連鎖(個人内連鎖)が18件、他者のエラーやトラブルに巻き込まれて起こる連鎖(個人間連鎖)が63件と分類できることがわかりました。また、鉄道運転シミュレータを使った実験では2)、自動車との衝突など大きなトラブルの方が情動やその後のエラーも起こりやすいことがわかりました。サイモン課題を用いた基礎心理学的な実験では、自分のエラーを認識した直後は反応が変化することもわかりました3)。
このように、現象面でのデータは蓄積されてきました。現在は、これらがどのように起こるのか、もう少し詳しい過程や要因を検討したいと思っています。まだまだ先は長いですが、それにめげずに研究していきたいと思います。
【参考】
1) 和田一成 (2013). エラーの連鎖の概念整理と事例の分析. JREA誌, 56(11), 27-30.
2) Wada, K., & Ueda, M. (2012). Emotional Responses to Trouble Events on a Train-Driving Simulator. Proceedings of the Human Factors and Ergonomics Society 56th Annual Meeting, 1997-2001.
3) Wada, K., & Ueda, M. (2016). Response patterns and emotional reactions after self-made errors in the Simon task. Japanese Journal of Applied Psychology, 42(Special edition), 53-59.
執筆者自己紹介
和田一成:大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。現在、西日本旅客鉄道株式会社安全研究所。エラーの連鎖を含めてヒューマンエラーの発生要因について実験的に研究している。趣味はないが、ぼーっとするのは人より得意と思われる。
専門家からの報告
名刺のちから
吉村健志(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所)
例年であれば、この時期、卒業・修了を控えた学生による就職活動が花盛りだったはずです。今年は、歓送迎会や、お花見、そして東京オリンピックですらもお預けですが、2月頃までは、大学や学会が主催する就活イベントがスケジュール通りに行われていました。
私の印象ですが、説明会解禁日に先だって行われるこれらの就活イベントには、その趣旨が伝わりにくいタイトル、例えば「○○技術フォーラム」や「○○産業へのお誘い」など、が付けられることが多いようです。
我が社も例に違わず、優秀な人材を探すため、これらの就活イベントに参加しており、今回、我が社が参加した就活イベントにも「○○フェスタ」という、いかにもわくわくしそうなタイトルがついていました。このイベントに参加する学生も、きっと明るい将来に胸を膨らませていることでしょう。
しかしこのイベント、名前とは裏腹に中身はいたって真面目。企業のリクルーターに同じ大学の出身者が多いということもあり、リクルーターと学生の間で突っ込んだ情報交換がおこなわれていました。
参加した学生には、コクリツケンキュウカイハツホウジンとはどういう組織なのか、他の民間企業とどこが違うのかを中心に一通り説明するのですが、中には名刺を用意してイベントに臨む殊勝な学生もいて、限られた面接時間を有効に使えることから、説明する側としてはとても助かります。
ところで、就活イベントでは、やはり立体的なコネクションも必要とのことで、イベント担当の教官と就職担当の教官に、お目にかかる機会を得ました。ここでも、形通りの名刺交換に始まり、つらつらと我が社の採用方針を説明したうえで、大学の取り組みなどのお話を伺うのですが、それだけでしたら既存の資料を読めば分かります。それ以外になにか話題はないかと、教官が私の名刺にふと目を落としたときに「認定人間工学専門家」の文字が飛び込んできたのでしょう。
「認定人間工学専門家」って
どんな資格なんですか?
しかも、期せずしてお二方とも同じ質問をしてきたのです。それまでは、共通の話題もなく白々とした空気が漂っていただけに、教官方も私の名刺に記載されている「認定人間工学専門家」という見慣れない文字に、つい反応してしまったのではないかと推察されます。
あまりメジャーな資格ではないですよねと謙遜しながら回答しましたが、内心では、名刺に記載される「認定人間工学専門家」の注目度に感心しました。この場が、人間工学の話題で大いに盛り上がったのは、言うまでもありません。
執筆者自己紹介
吉村健志:平成15年、日本大学大学院生産工学研究科管理工学専攻博士後期課程 修了。同年、独立行政法人産業技術総合研究所人間福祉医工学研究部門 特別研究員、平成16年、独立行政法人海上技術安全研究所 研究員、平成21年 同 主任研究員、現在に至る。
海事分野におけるヒューマンファクタ研究に従事。日本人間工学会、産業・組織心理学会、産業保健人間工学会、日本交通科学学会、日本船舶海洋工学会、日本航海学会、日本プラント・ヒューマンファクター学会の会員。博士(工学)。
報告
CPEJの施策/活動に関する調査結果
横井元治(本田技研工業株式会社)
西原彩 (日本人間工学会事務局)
機構では、CPEJの施策/活動に関する調査を実施しました。結果を下記にご報告します。ご協力いただいた皆様ありがとうございました。
1.調査概要
・調査方式:Webによる回答
・調査期間:2019年12月23日~2020年1月19日
・調査依頼総数:363名
(専門家…212名, 準専門家…133名, アシスタント…8名, シニア…10名)
・回答者数:162名(44.6%)
2.調査回答者内訳
資格別では準専門家の回答率が低かったことを除き会勢と類似していた。
今回の回答者の特徴としては以下の2点が挙げられる。①企業所属者が多い②資格取得後の年数が浅い。
3.CPE活動の認知度について
各活動についての機構員の認知度が明確となった。8割以上が理解している活用がある一方、機構員の半数以上に認知されていない活動もあることが明確になった。今後は会報やニュースレターを活用し、これらの活動の認知も上げていきたい。
4.CPEセミナーおよびCPEサロンについて
機構員の参加型施策であるCPEセミナー及びCPEサロンについての実態調査をおこなった。
これらは8割以上の機構員に活動を理解されているものの、参加できている機構員は約半数にとどまっていることが明確になった。
また、参加いただいている方の意見としてはおおむね好評であり、これらイベントは今後も継続していきたいと考える。
今回いただいた意見を参考に、テーマや開催方式など、今まで以上の多くの機構員が対応可能となるアイデアを組み込んでいきたいと考える。
参加しなかった理由(Q6-1, Q8-1自由記述の一部)
【セミナー】
・まだ、CPEになって日が浅く、ちょうどよい機会がなかった
・現在、仕事で人間工学の優先度があまり高くないため
【サロン】
・平日の昼間に開催されても、民間の一般企業勤務だと業務の都合上、参加できない
・企業人のためテーマが一致していないと業務として参加することが難しい
・その回の分野の内輪の会のような感じになるのでは?と感じてしまった
Q7. CPEセミナーに対しての希望
Q9. CPEサロンに対しての希望
・土日に開催してほしい
・近畿地方で開催してほしい
・ネット配信
・回数を増やしてほしい
・セミナー希望テーマ:基礎、最新技術、AI,UX関連、トイレ、モノ・システムづくり
への活用事例
・サロン希望テーマ:UX,サービス工学
5. CPEの施策、活動全般について期待するもの
機構に対する期待としては、人間工学の専門家として、自身がレベルアップしたい要望と人間工学全般の認知度向上を望む機構員が多数であることが確認できた。
自由記述の一部
・ニュースレターやメールマガジンの月次配信
・専門家と専門家を必要とする企業とのマッチング
また、自由記述も多数寄せられ、機構への期待の高さが確認できた。特に一般のかた、そして企業へのPRなど、社会的価値を高めてほしいというコメントが多くあり、今後の機構活動の方向性として取り組んでいきたい。
6.その他
各年度の機構活動については、総会資料に記載しております。今後も機構員全員の協力で機構及び人間工学活動を盛り上げていきましょう。
Q11.CPEの施策/活動全般についての意見(自由記述の一部)
・一般人、企業へのCPEJ認知向上
・資格の社会的価値を高めてほしい
・情報の発信や共有があまりないので、活動状況がわかりづらい
・人間中心設計の資格のように「準専門家」の名称を「スペシャリストにしてほしい
・機構会費の使途がよくわからない、口座振替できるようにして欲しい
・いつもセミナーなど学びの機会をいただき大変ありがたく思っています
・業界外の方でも興味を持てるようなテーマで、一般公開セミナーがあってもよいと思います
【運営事務局】
八木佳子、黒米克仁、横井元治、西原彩
報告
2020年度 総会・講演会
緊急事態宣言下の 4 月 21 日(火)、オンライン方式で、令和 2 年度総会・講演会が開催されました。講演会では、野中隆氏(株式会社ノーリツ)から「人間工学の入浴行為への活用と可能性の模索」、山崎友賀氏(三菱電機株式会社)から「三菱電機におけるユニバーサルデザインの取り組み」というテーマで、ご講演いただきました。
また、第 9 期人間工学専門家認定機構長選挙が実施され、立候補者の八木佳子氏(株式会社イトーキ)が信任されました。
●お知らせ
今年度の資格認定試験は、2020年9月12日(土)/東京会場、2021年2月20日(土)/大阪会場の2回行う予定です。詳細および最新情報は、機構のウェブサイトに掲載します。
https://www.ergonomics.jp/cpe/exam-info
●専門家の新規登録(50 音順、敬称略)
-
【認定人間工学準専門家】
(4月1日認定)伊藤駿
●認定状況
2020年4月1日現在(1年間の人数増減)
- 人間工学専門家 214名(- 9名)
- 人間工学準専門家 144名(+21名)
- 人間工学アシスタント 9名(-4名)
- シニア人間工学専門家 13名(+5名)
○編集後記(お礼)
この号の記事は、コロナウイルス禍の中で、ご執筆いただきました。計画通りの会報発行を支えてくださった皆様にお礼申し上げます。
緊急事態宣言によって、自宅テレワークをされている方が多くいらっしゃると思います。私が人間工学の仕事を始めた1980年代後半は、オフィスにワープロやパソコンが普及し始め、VDT問題が生じた時期でした。新しい道具によって働き方やオフィスが変わり、不適切な道具や使い方に起因する頸肩腕の痛み、目の疲れなどを訴える人が増えたのです。今、自宅を仕事の場にしたことで、同様の問題が起きているようです。パソコンの利用に適した机やいすの高さ、環境(照明、採光)や運用の問題、快適な職場とするには、それなりの配慮が必要です。久方振りに、そういったことを同僚に伝えていますが、入社当時の研究を、現在また、役立てることができています。
さて、この号を以て編集長および現在の編集委員会を終了することになりました。創刊から16年間、機構と専門家の活動をタイムリーに発信するとともに、未来にも読まれることを想像して記録に残す仕事を、楽しみながら継続することができました。ご執筆・情報提供くださった皆様、編集委員・編集発行を支援してくださった皆様に深く感謝いたします。今後は、新体制のもとで会報の在り方を検討していくことになると思いますが、私も読む側、投稿する側として接点を持ちたいと願っています。長い間、ありがとうございました。
(松本啓太)
○会報、編集委員会へのご意見、情報提供は
-
e-mail:cpenewsletter@ergonomics.jp
〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-16 赤坂スクエアビル2F 日本人間工学会事務局
会報・人間工学専門家認定機構編集委員会 -
【編集委員会】
松本啓太(編集委員長)、青木和夫、城戸恵美子、斉藤進、福住伸一、藤田祐志、吉武良治、鰐部絵理子 -
【会報バックナンバー】
https://www.ergonomics.jp/cpe/publications/bulletin https://www.ergonomics.jp/product/newsletter.html