会報・人間工学専門家認定機構 Vol.62
Vol.62 2020年2月1日
会報・人間工学専門家認定機構編集委員会
専門家からの報告
入浴行為における人間工学
野中隆(株式会社ノーリツ)
私が人間工学と接し始めたのは大学時代からです。ノーリツに入社後は特にお風呂に関係する領域を中心に研究開発を行ってきました。特に最近では高齢化の更なる進行により入浴中の急死者数も増加しているとの推計もあり、入浴関連事故について取り組むことが増えてきました。
私自身が入浴関連事故について業務として取り組み始めたのが2000年代の半ば頃ですので、かれこれ15年以上になってまいりました。以前とは違い最近は過去には使用できなかった新しい技術やソリューションが多く存在していると感じています。IoTなどがその好例であり、これまでは商品単体で捉えていたものを、情報の範囲や種類をかなりの範囲にまで広げて捉える必要があります。そのため、色々な種類の社外の方とお会いする機会も増えています。多くの技術や製品を持つ会社の方などにお会いした際の話として、解決すべき問題を持ち合わせていなかったり、解決させる方法が探り出せない状態だということを良くお聞きます。人間工学という分野はこの解決すべき問題を発見し、解決させる方法を科学的に探り出すことが出来る点にアドバンテージがあると思います。
しかしながら、最近の技術の進歩は早い上に様々な分野で同時多発的に進行するために頭を悩ませることが多くあります。ソリューション全体を開発するという点において人間工学という領域のみでは答えに辿り着けないため、いかに広範な関連技術と付き合っていくのかが重要であると感じています。また、今後もSDGsなどに代表されるように一個人の問題だけではなく、社会全体の問題解決にも繋がることに注視する必要があると思っています。そして、さらに先にはもう幾つかの注視すべきポイントがあるではないかとも感じているところです。元来お風呂はくつろいだり、ゆったりと出来る場でもあるため、社会問題などという言葉を用いた直後ではありますが、今後ともお風呂がゆっくりくつろげる場所として接してもらえるように取り組んでいきたいと思います。
執筆者自己紹介
野中隆:株式会社ノーリツ研究開発本部イノベーションセンター要素技術研究部所属。
2000年九州芸術工科大学大学院修士課程修了。2003年より株式会社ノーリツ中央研究所に所属。2006年より現在の要素技術研究部に所属。中央研究所以降は主に入浴行為や浴室環境に関する研究開発に従事。専門は環境人間工学、ユーザビリティ。
【 関連サイト 】
ノーリツ、冬のお風呂セミナーを開催
http://www.mylifenews.net/sleep/2014/10/post-67.html
冷え性はタイプによってお風呂の入り方が違う?
https://news.ameba.jp/entry/20171126-113
「ココロほぐし浴ゆるる」ノーリツ明石本社工場見学
http://www.yunokuni.com/2012/07/noritz-yururu.html
専門家からの報告
東日本大震災の教訓を生かして
彦野賢(原子力安全システム研究所)
2011年に発生した福島第一原子力発電所事故においては,国際原子力・放射線事象評価尺度でのレベル7という住民と環境に甚大な影響を与えた事故が発生し,今後,数十年にわたり管理を継続していく必要があります。この事故の問題点については数多くの書籍や報告書で様々な提言がなされており,諸外国においてもこの事故経験を踏まえた対応が進行しています。例えば,国際原子力機関(IAEA)は,世界的に発生した他の原子力事故事例も踏まえ,従来のQMS(品質マネジメントシステム)の考えをさらに進め「安全を達成するためにはマネジメントシステムに安全文化と安全のためのリーダーシップを融合させて取り組む必要がある」とし,国際的な安全要求事項を2016年に改正しました。国内の原子力発電所では,新たな規制基準への対応やその他要求事項に対応していくことが求められていますが,技術的な対応もさることながら,上記の国際的な安全要求事項の改定に反映されている社会科学および人間科学的な対応をも進める必要があるところです。
筆者が所属している原子力安全システム研究所は、技術システム研究所と社会システム研究所を併設した世界的にも数少ない研究所です。最近の研究例として、東日本大震災の教訓を生かした発電所幹部クラス職員への緊急時対応訓練を筆者らは開発しました。この訓練は休日夜間の最小リソースで、思いもよらない緊急事態に如何に対処するかを、状況付与型の演習での行動で求めており、東日本大震災の教訓から抽出したスキル(主にノンテクニカル)を鍛えることを目的としています。緊急時対応にあたる職員のスキル向上にとって、より効果的な訓練になるよう今後も改善する予定です。
【参考】
ノンテクニカルスキルに着目した緊急時対応訓練の開発 -(1)「たいかん訓練」の開発と試行 -
http://www.inss.co.jp/wp-content/uploads/2017/11/2017_24J032_041.pdf
執筆者自己紹介
彦野賢:(株)原子力安全システム研究所 ヒューマンファクター研究センター所属。博士(人間科学)。1990年関西電力入社。2008年より現職。2018年認定人間工学専門家資格取得。発電所職員の繁忙感に関する研究、発電所幹部クラス職員の緊急時対応訓練開発研究に従事。趣味はウォーキング。
専門家からの報告
もしこれが旅客機の操縦室で起きたら
仲谷尚郁(三菱重工業株式会社)
車で妻の実家へ帰省した帰り道、カーナビで行き先を「自宅」に設定して運転していました。すると、途中からいつもとは違うルートを案内し始めたのです。ルート変更の理由が分からなかったので、ナビの指示には従わず、しばらくはいつものルートを走ることにしました。しかし、分岐の度にルート変更を指示してきます。結局、最後まで何事もなく自宅近くのlC出口で高速道路を降りましたが、それでもまだ自宅とは違う方向へ曲がれと言ってきます。そこでようやく気がつきました。行き先が自宅とは異なる地点に設定されていたのです。家族の誰かが出かけた先の地点登録をしようとして誤って、その場所を「自宅」として登録してしまったようです。
カーナビや運転支援システムの追加により自動車の運転はずいぶん楽になりましたが、その利便性を享受するまでには、幾度となくヒューマンエラーを意識させられる場面がありました。そこで経験するものは、旅客機のパイロットの役割が機体の操縦からシステムの監視制御へと比重が大きく変化し、自動化システムと人との間に生じる状況認識の問題やプロテクションとオーソリティの問題など、新たな問題としてクローズアップされてきた状況と多くの共通点があったように思います。
旅客機と自動車は似て非なるものですが、自動車における自動化の進展の過程においても、問題の本質は大きく変わらないと考えられます。旅客機の自動操縦を用いた運用は、パイロットが常に運航・監視の役割を持っているので自動車の自動運転Level2に留まっていますが、自動車では昨年末の法改定により、いよいよLevel3での運用が始まろうとしています。旅客機も技術的には不可能ではないのですが、未だリスクを受容されるに至っていません。これから先を行くことになる自動運転のヒューマンファクターや社会受容性についても、共通の意識を持って取り組んでいくべき課題として考えさせられた年末年始でした。
執筆者自己紹介
仲谷尚郁:千葉大学工学研究科修士課程修了。主に監視制御や操縦システムのHMIの研究・設計開発に従事。フライトデッキの自動操縦システムを含むHMIの開発から規定適合性評価への関わりが長い。最近は遠隔操縦、自立システムとの連携がテーマ。
●専門家の新規登録(50 音順、敬称略)
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【認定人間工学準専門家】
(1月1日認定)星野祥子
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〒107-0052
東京都港区赤坂2-10-16 赤坂スクエアビル2F 日本人間工学会事務局
会報・人間工学専門家認定機構編集委員会 -
【編集委員会】
松本啓太(編集委員長)、青木和夫、城戸恵美子、斉藤進、福住伸一、藤田祐志、吉武良治、鰐部絵理子 -
【会報バックナンバー】
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