ご挨拶
人間工学は、ひととシステムとのインタラクションの最適化を図り、労働生産性とウェルビーングとの両立を進めてきました。そして、今回大会が開催される2024年は1964年に日本人間工学会設立してから60年目の年でもありますが、社会は大きく変わりました。
60年前には、駅が多くのサラリーマンで混雑し、皆が満員電車に揺られ、駅にはたくさんのタクシーが並び、多くの人々が工場で物づくりに携わっていました。現在は、コロナ禍を抜けて一息付く間もなく、少子高齢社会による人手不足が急激に進み、地方都市だけでなく都市部においてもバス路線などの公共交通機関や公共サービスの維持が難しくなっています。北海道札幌市では2023年12月から640便のバスが削減され多くのバス路線が短縮され、これからも高齢ドライバーの退職にともなって、バス路線の縮小が進み、従来のような公共交通の維持は困難になりつつあります。
このような60年後のいま、工場だけでなくサービス業の現場でもロボットなどの知能・自律型システムが人手不足を補う切り札として導入され、工場ではひととロボットが同じ生産ラインで作業し、ファミリーレストランではネコ顔の配膳ロボットが客のテーブルに料理を届け、多くの地方自治体が自動運転技術を搭載したバスの実証実験を進めてます。
少子高齢化に直面している欧米先進国の状況を踏まえ、国際標準化機構ではロボット、知能・自律型システムの人間工学に関する技術報告書を2020年に発行し、ロボット、知能・自律型システムのガイダンス(ISO/WD 9241-812)の標準化を進めています。
60歳を意味する「還暦」は、「生まれ直し」、「第二の人生の始まり」を表します。これからの社会課題に対峙するためには、生まれ直して第二の人生を歩むがごとく、人間工学においても新たな挑戦を始めなければなりません。
今大会の開催地である北海道千歳市は洞爺支笏国立公園の支笏湖と国際空港を有しながら、人工知能や自動運転技術に利用される最先半導体の工場建設が進んでいます。このような環境で開催する今大会が、ひとと知能・自律型システムとの共存によってウェルビーングをさらに向上させ、新たな価値を創造する人間工学の役割を考える契機となればと思います。
最後に、千歳市が有する支笏湖は、周囲が東京の山手線と同じ40km、日本で2番目に深く、透明度は全国1位、さらに、湖畔には温泉が湧き原生林に囲まれた自然豊かな場所でもあります。遠方からお越しいただく皆様におかれましては、会場から車で40分の距離にある支笏湖の湖畔で思いっきり深呼吸して、北海道の大自然の風景を目に焼き付けていただき、温泉でリフレッシュしてから家路についていただければ幸いです。
日本人間工学会第65回大会
大会長 小林 大二