日本人間工学会 九州支部第30 回大会の報告
(人類働態学会西日本地方会第35 回大会との合同大会)
【開催日】:2009年12月12日
【寄稿者】:山田 晋平先生(産業医科大学産業保健学部 助教、JES広報特派員)[プロフィール]
平成21 年12 月12 日(土)に、福岡県北九州市にある北九州国際会議場にて、和田親宗大会長の下、日本人間工学会 九州支部第30 回大会が開催されました。本大会は、人類働態学会 西日本地方会第35 回大会との
合同大会として開かれました。両学会の研究領域には、重なり合う部分もありつつ、異なる部分があることから、互いにいつもとは違う視点を得て、刺激を受け合う大会となりました。
会場である北九州国際会議場は、西日本総合展示場に隣接しており、そのコンベンション機能を高める目的で建設された大規模な国際学会から小規模の会議などにも幅広く対応できる施設です。最寄りのJR 小倉駅から西日本総合展示場までは、屋根付の動く歩道で結ばれており、高い利便性を誇ります。本大会は、人類働態学会 西日本地方会との共催であるため、九州からだけでなく、和歌山大学や広島大学からも諸先生方を始め、大学院生や学部生の参加がありました。新幹線が停車する駅としては九州最北端であるJR 小倉駅に隣接する当該施設は、最適な会場だったかと思います。
9 時より受付が開始され、評議員会が開催された後、1 つ目のセッションに先立ち、10:15 に和田親宗大会長より開会の挨拶がありました。本大会は60 席ほど会議室1つで各セッションが行われ、発表時間は発表10 分、質疑応答4 分で行われました。
セッションA
1 つ目のセッションは、10:20 から11:20 までで、4つの発表がありました。その中に、音声を用いたポインティングデバイスに関する研究(大西章也,上見憲弘,ホルマントを用いたポインティングデバイスのための基礎研究とそのマッピング手法の提案)がありました。口の開閉具合や、舌の前後位置によって音声の周波数を制御することで、パソコン画面上のポインタを操作できるとのことで、会場から高い関心が寄せられていました。視線などをつかった他の手法とは違った活用場面も考えられ、大変興味深く拝聴しました。
セッションB
2 つ目のセッションは、1 つ目のセッションが多少押したことともあり、予定の時間では収まりませんでした。時間が延長した一番の要因は、活発な議論が交わされたことによるものでした。全国大会のようにテーマや領域ごとに分かれて発表が行われる形式と違い、会場が1つであることや人間工学会と人類働態学会との共催であることによって、専門領域が異なる研究者が一堂に会したのが、いい刺激になったのではないでしょうか。また、極度に専門的な内容に偏っていない質疑応答は、むしろ、まだ経験の浅い大学院生や学部生にとっては、有意義だったのではないかと感じました。
個人的に興味深かった発表は、認知的側面に注目した簡易的なタスク分析手法に関するものです(土井俊央, 山岡俊樹, 認知的側面からユーザビリティ評価をするための簡易的なタスク分析の提案)。近年、様々な製品において機能の高度化や多機能化が進むにつれ、操作方法が複雑になってしまう場合が多く、簡易的なユーザビリティの評価法のニーズは非常に高いと感じていました。この発表では、認知的側面に注目することで、従来の手法に比べ、短時間で行えるユーザビリティの評価方法が提案されており、非常に有用性が高いと思いました。
[午前中のセッションの様子]
総会
2 つ目のセッションの後、昼食を挟み、総会が開催されました。総会では平成20 年度の活動報告と来年度の活動計画が議題となりました。その中で、来年度の九州支部大会は、総合せき損センターの藤家馨先生を大会長とし、人類働態学会 西日本地方会との共催については、今後、協議していくとの報告がありました。近年、九州支部大会では参加者の顔ぶれの固定化が進んでいるように感じていたこともあり、個人的には、関連学会との共催を今後も行って欲しいと感じました。
特別公演
13:55 からは、特別講演として「極限環境をのりきる」と題して、九州工業大学の田川善彦先生よりご講演を頂きました。月や火星といった微小重力下において、効果的な運動法である電気刺激ハイブリッド訓練法といった普段見聞きする機会のないテーマに関するものでした。導入に、火星の有人探査や月面での作業といった話があり、一気に学生の興味を引いていたように感じられました。また、月や火星といった極限状態における訓練としてだけではなく、長期臥床に伴う筋骨格の廃用症候への対応や麻痺肢の運動機能の改善や再建といった側面への応用についての言及があり、リハビリや福祉機器を研究対象としておられる参加者からも、高い関心を得ていました。
セッションC, D
15:00 からは3 つ目のセッション、それに続き、16:15 からは4 つ目のセッションが行われ、活発な議論がなされました。特に、緊張しつつも真摯に学会発表を行う学部生や大学院生と、それに応えて暖かい視点から質問やアドバイスをされる諸先生方の姿が印象的でした。
セッションD では、高齢者が着脱しやすい衣服の検討を目的に、高齢者と若年者でT シャツの着脱パターンを検討した研究 (谷水香奈美, 村木里志, 山崎昌廣, 高齢者女性および若年者女性のT シャツ着脱パターン分析)が印象的でした。高齢者において肩関節の可動域が狭まることは知識として知っていましたが、T シャツの脱ぎ方にまで違いが現れることに新鮮な驚きを覚えました。また、この研究において明らかになった、狭まった可動域での着脱のパターンは、着脱しやすいデザインの衣服の開発において非常に有用な情報であり、今後の研究の発展を期待させる発表でした。
名刺交換会
すべての発表が終わった後に、名刺交換会がありました。名刺交換に留まらず、発表時に時間の関係で十分にできなかった議論や、コメントや感想などを学生に伝える姿も見られ、30分程度と短い時間でしたが、有意義なものとなったかと思います。
若手優秀発表賞表彰
最後に、若手優秀発表賞の表彰がありました。本大会は、共催ということもあり、九州大学大学院の塩満春彦さん(ヒトの足部アーチ形状と足部疲労感および歩行動作との関連)と九州工業大学大学院の岩崎泰典さん(仮現運動生成のための冷覚知覚特性を考慮した刺激呈示法の提案と評価)の2名の選出がありました。両名共に、プレゼンはもちろん、目的と研究デザインがしっかりしており、今後の研究の発展が期待される素晴らしい発表でした。
終わりに
今回の大会は、人類働態学会 西日本地方会と共催によって、いつもにも増して活発な議論がなされた大会となったかと思います。あと、大学院生や学部生の入念な準備や練習をしてきたこと伺わせる丁寧な発表が印象に残る大会でした。
この度、広報特派員として、九州支部大会の報告をさせていただきましたが、多少なりとも本大会の雰囲気が伝わりましたら、幸いです。