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学会組織

一般社団法人日本人間工学会 学会活動報告総括

旧第十七期・第一期・第二期 (2007年4月-2012年6月)の
 学会活動報告総括

2012年6月26日
斉藤 進
第1期・第2期 日本人間工学会理事長
(公益財団法人 労働科学研究所)

はじめに

先ず以て、会員の皆様方の暖かいご支援を頂くことにより、一般社団法人日本人間工学会(JES)理事長の任期を全うすることができたことを深く感謝申し上げます。私は、2012年6月9日に九州大学で開催された第53回大会時の定時社員総会をもって、JES理事長を退任致しました。同日、総会後に開催された新理事会において、青木和夫氏が新理事長に選出されました。青木理事長は、代表理事としての法務局登記も完了し、2012年度の委員会や各担当等々、新たな学会事業活動がすでに始まっています。この機会に私の任期中の主要な活動等を報告させて頂きます。

日本人間工学会会長として掲げた目標

2007年6 月に前任者である大久保堯夫氏から日本人間工学会の会長を引継いだとき、私は社会に役立つ実践的な活動として、以下を本学会の目標として掲げました。

  1. 人間工学を社会常識とすることにより、安全で安心できる社会を実現
  2. 社会ニーズ及び学術ニーズに沿った存在感のある学会を指向
  3. 人間工学により問題解決が可能となるサクセスストーリーを展開

以上を実現するための具体的活動としては、

  • 若手会員や実践家を積極的に活用し、学会活性化に有用な次世代人材を育成
  • ホームページ等を活用し、開かれた学会運営と社会へ向けた情報発信
  • 研究部会等の成果を公開し、各分野の研究活動を社会的に活用
  • 委員会等を、継続的な常設委員会と期間を定めた臨時委員会とに分離

したことです。目標として掲げたままで、現時点では緒に就いたばかりのことも多々あります。しかし、上記の目標を掲げ、可能な限り事業計画として具体化してきた背景には、人間工学を社会へ浸透させることにより、健康で暮らしやすい社会を実現することに本学会が少なからず貢献できると確信していることがあります。もとより、2011年3月11日、東北地方太平洋沖で発生した地球規模でみても稀なマグニチュード9.0という巨大地震と、引き続く大津波や数々の大きな余震に加え、福島第一原子力発電所の炉心溶融事故等々を経験した今、むしろ人間工学及び本学会が社会的に果たせることの少なさを実感しています。しかし、例えば、子どもたちに人間工学の考え方が重要であると理解してもらえれば、子どもたちが成長して社会を担う世代に育ったとき、私たちは、現在よりはるかに健康で暮らしやすい社会に住むことになると今でも確信しています。

人間工学は、本来、実用的で社会に役立つものなのです。人間工学上の目的や社会的意義が必ずしも明確ではない学会発表や論文が、人間工学研究として実際には偶さかみられるように思います。学会員が所属する学術機関の中期目標等々、発表した論文数が数値目標と比較して評価される時代ではありますが、人間工学及びJESが社会的貢献を果たすためにも、本来の実践的な人間工学の役割に立ち返ることが必要だと考えています。

2007~2011年度活動の総括

2007年度は会長一年目であり、名城大学で開催した第48回大会(福田康明大会長)から始まりました。委員会の設置目的により、長期的及び継続的に事業を実施する常設委員会と、成果を組織的に活用するため期間を定めた臨時委員会とに分離したことを述べました。初めて新設した臨時委員会が、将来計画委員会です。活動のポイントとして、次世代JESのあるべき組織や事業等を提案することが委員会使命であると文書にしました。青木和夫氏を委員長とし、産学官で構成された委員会は、2008年6月にとても建設的な成果を報告書として公開 しました。広報委員会(酒井一博委員長)では、人間工学上の良好事例を収集・閲覧・活用できるよう、グッドプラクティスデータベースの公募を始めました。この活動は、数年後に表彰委員会(阿久津正大委員長)と連携することになります。なお、JESの認定人間工学専門家制度がIEA認証を受け国際資格となったのが2007年です。

2008年度には、臨時委員会として、企業の人材育成プログラム開発委員会(酒井一博委員長)と人間工学研究ガイドライン検討委員会(横井孝志委員長)を新設し、それぞれ他学会等でも活用している報告書研究倫理指針を公開しています。2008年6月に共立女子大学で開催した第49回大会(間壁治子大会長)では、学会として企画した公開シンポジウム「あなたに身近な人間工学-実践的活用と社会への普及」には、参加者1,200名と多くの方々に人間工学の普及を図る絶好の機会となりました。また、これまでの賛助会員向け人間工学啓発セミナーを発展させ、一般の方々にも参加を呼びかける人間工学公開講座「人間工学の活用と実践」を2009年3月に日本大学で開催しました。

2009年度には、学会として多くの出来事がありました。本学会は1964年に設立されました。今回の全国大会を第50回記念大会(赤松幹之大会長)として(独法)産業技術総合研究所で開催し、学会企画シンポジウムは、50回に相応しく「人間工学の歴史と未来」としました。大会では、学会誌「人間工学」創刊号の表紙をはじめ特集記事に掲載された数々の写真を撮った石松健男氏を記念した写真展示がありました。

2009年度総会では、これまでの任意団体JESを解散し2009年7月1日付けで一般社団法人として新たに設立登記するよう、学会の基本的原則を文書化した定款を決議しました。同時に、役員選挙規程を見直し、理事長は連続して2期を超えないことを原則としました。学会運営の透明性と流動性を高め、若手人材を含めた多様な方々が学会運営に参加することが未来へ向けて組織を発展させるための要諦と考えたからです。組織は、変わり続けることで時代を予見し、よりよい社会づくりに貢献することができると考えています。

JESが任意団体ではない法人格を持つことは、1974年に学会内に法人化委員会を設置して以来、1996年には法人化募金を開始するなど長年の懸案でした。JESが法人設立までに35年を要した最も大きな要因は、国の公益法人制度の抜本的改革によるものでした。2009年7月1日に、一般社団法人日本人間工学会を設立登記しました。また、ニーズ対応型人間工学展開委員会(榎原毅委員長)とテレワークガイド委員会(吉武良治委員長)を臨時に設置しました。前者は、法人化を目途として積立てた基金を活用し、JESウェブサイトを全面的に改訂する産学官民連携を促進するための大規模な事業です。サイト活用による学会員への調査に基づき、科学研究費補助金「系・分野・分科・細目表」に「人間工学」を採択するよう要望書を、(独法)日本学術振興会へ提出しています。

2009年度の公開講座は、「日本のテレビは何故北を向く?-ホームリビングと人間工学の新機軸-」を主題とし、2010年3月に成蹊大学で開催しました。

2010年3月には、学会誌「人間工学」が創刊号から順次、(独法)科学技術振興機構のJournal@rchiveに採用されて電子公開されました。いつでもどこでもだれでもネット端末で読むことが可能となった1960年代の人間工学誌からは、高度経済成長を続ける当時の社会が人間工学へ寄せる期待の大きさと、それに応えるJES創成期の学会員の熱い思い、さらには実践的研究に備わっている学術水準の高さが伝わってきます。人間工学誌の電子公開は、電子ジャーナルサイトであるJ-STAGEで現在に継がれています。

2010年度には、北海道大学で第51回大会(横山真太郎大会長)を開催し、IEA会長のAndrew Imada氏を特別講演に招待しました。また、安全人間工学委員会(芳賀繁委員長)を復活設置したことを機に、学会企画シンポジウムを「安全人間工学再興」としました。

2010年度は、子どもの人間工学委員会(小松原明哲委員長)を設置しました。同委員会は、2012年の第53回大会(栃原裕大会長)で関連する諸課題を整理したシンポジウムを開催しています。2010年10月には、薄型テレビの人間工学設計ガイドライン検討委員会(窪田悟委員長)を設置し、50ページで構成される薄型テレビガイドラインを2012年1月に日英両国語版によりJESサイトで公開しています。また、初代人間工学専門家部会長の藤田祐志氏がIEAで資格制度や教育を担当するPSE役員に選任されたことを支援するため、JESにPSE担当を設置しました。この活動は、2012年2月に藤田祐志氏が財務担当のIEA副会長に選任されたことにつながる大きな成果となりました。

2010年度の公開講座は「事故防止のヒューマンファクターズ・アプローチ-第一線からの防止対策の紹介-」を主題とし、12月の関西支部大会(大須賀美恵子支部大会長)の一部として大阪工業大学で開催しました。

2011年度は、2011年3月11日に発生した東日本大震災に対し、学会としてできることを真摯に考えました。学会として広く発信した多くのメッセージ、人間工学専門家認定機構(青木和夫機構長)と連携した緊急意見交換会と節電中の作業環境(照明、温度)に関する配慮についての情報発信 、原発事故に対する安全人間工学委員会(芳賀繁委員長)からの所見表明IEAトップページへ同所見の掲載 、IEA会長Andrew Imada氏など国際社会から震災発生の早い時期に寄せられたお見舞いと連帯メッセージ 、被災されたJES会員へ年会費免除策、学術面での被災地支援として仙台市でのヒューマンインタフェースシンポジウム2011(北村正晴大会長)協賛、等々がこれらの例です。また、2011年6月に早稲田大学で開催した第52回大会(河合隆史大会長)では、日韓シンポジウムへ参加する大韓人間工学会員を含む大会参加者へ向け、震災による逼迫状況下での開催に当たり、伝えることが必要なメッセージを日韓両国語で発信しました。学会企画シンポジウムは「世界をリードする人間工学アクセシビリティ規格」としました。

2011年12月には、IEAの情報インフラ支援を目的としたウェブアクセシビリティ支援委員会(青木和夫委員長)を設置しました。翌2012年2月にブラジルで開催されたIEA理事会では、JESが推薦した藤田祐志氏が財務担当のIEA副会長に選出され、JESと連携したIEA基盤構築への貢献活動を積極的に進めているところです。2011年度の公開講座は、「人間工学を社会の常識に!~安全で安心できる社会を実現するために~ 」として、10月に東海支部大会(斎藤真支部大会長)と連携して開催しました。

2012年度には、九州大学で第53回大会(栃原裕大会長)を開催しました。学会企画シンポジウムは「最近のディスプレイ技術を巡る人間工学」としました。また、大会時に「高校生のための人間工学公開講座」を研究施設紹介とともに開催したのは画期的なことでした。また、第2期編集委員会(小松原明哲委員長)が、「人間工学」48巻3号で特集「震災から人間工学が学ぶこと・すべきこと」を2012年6月に発行したことは、社会的にも大きな業績だと考えています。現在、2012年度は、青木和夫理事長による新体制が開始した草々であり、今後、人間工学及びJESが社会にますます浸透して行くことを期待しています。

おわりに


台湾人間工学会へ参加する
台湾高速鉄道の車中にて

人間工学は実践的な科学技術であり、時代と状況に応じて迅速かつ的確に対応することが必要です。一般に、変わることが得意なのは若い人です。幸い、2012年度から活動を開始している新JES組織は、企業で人間工学の実践を積んだ方々や、40歳代の若手有望人材が学会運営の中核を担う新戦力となる場面が出てきています。

IEAへ加盟する学会として米国HFESに次ぐ規模を有するJESに対し、国際社会が大きな期待をしていることを実感しています。大韓人間工学会や台湾人間工学会とのJES交流は、ますます活発となっています。JES会員の多くが、意識せずに国際交流を日常的に行う日も近づいているように思います。

最後になりましたが、学会運営を私とともに支えて頂いた多くの方々に心から感謝申し上げます。



 


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